部下から「退職したい」と突然伝えられると、驚きや戸惑いを感じるのは当然です。しかし、その場でどのように対応するかが、部下との信頼や職場の雰囲気を左右します。

焦らず、部下の話をじっくり聞くことが最初のステップです。本記事では、部下が退職を考える主な理由や、前向きに対処するための具体的な方法をわかりやすくご紹介します。

部下の突然の退職宣言にショックを受ける人も少なくない

部下から「やめたい」と言われたとき、戸惑いやショックを感じるのはよくあることです。これまでチームの一員として共に働き、成長を支えてきた相手であればあるほど、「自分に何か問題があったのか」「もっと早く気づけなかったのか」と悩むことは自然な感情です。

特に、部下との関係を大切にしてきた人ほど、このような状況に直面すると強い衝撃を受けることがあります。実際、株式会社Mediplatが大企業の中間管理職を対象に行った調査では、約6割が「部下の突然の休職や離職に困った経験がある」と回答しています。

多忙な職場環境では、部下の本音に気づくのが難しく、結果的に退職という形で気持ちが伝えられるケースも少なくありません。動揺してしまうのは無理もありませんが、まずは冷静に感情を整理し、次に取るべき対応を落ち着いて考えることが大切です。

参考:

株式会社Mediplat「休職・離職に関する意識調査」 

まずは部下の話を聞き、対応策を一緒に考える

組織開発、人材管理などに特化したコンサルティング会社のヒューマンキャピタルイノベーションズの記事によると、退職を決意した部下は、これまで心に抱えていた職場の課題や自身の悩みを正直に話してくれることがあります。

この貴重な機会を活かすためにも、まずは一方的に説得しようとするのではなく、じっくりと話を聞く姿勢が求められます。

逆に、部下の話を最初から聞かず、説教や自分の意見だけを押し付けてしまうと、さらに関係を悪化させてしまう恐れがあります。実際、「上司が話を聞かない」と感じたことが理由で退職を決める人も少なくありません。

感情的な対応は部下との信頼関係を傷つけるだけでなく、職場全体にネガティブな影響を与える可能性があります。

話を聞く際には、部下の立場に立ち、何を感じ、どのようなことに悩んでいたのかを理解することが大切です。その上で、部下の意向を尊重しながら、必要であれば解決策を一緒に考える姿勢を見せましょう。

退職の決意を変えられない場合でも、誠実な対応は部下に安心感を与え、最後まで前向きな関係を築く助けになります。

参考:

Human Capital Innovations“Why Employees Really Quit and What Leaders Can Do”

よくある部下が辞める理由

World Economic Forumの記事によると、部下が退職を検討する背景には、いくつか共通する要因が存在します。これらを理解し、適切に対応することで、職場環境を見直すきっかけになるかもしれません。

仕事にやりがいを見出せない

部下が「この仕事にはやりがいがない」と感じると、モチベーションが下がり、退職を考え始めることがあります。例えば、自分の役割や成果が認められない、仕事が単調で達成感を得られないといった状況が続くと、「自分は必要とされていないのではないか」という思いが強くなることがあります。

また、目標設定が不明確だったり、スキルや経験を活かせる業務に携われない場合も、やる気を失う原因となります。こうした問題に気づき、部下に適切なフィードバックを行ったり、成長の機会を提供することが重要です。

自分らしく働けない

職場で自己表現が制限されると、ストレスが蓄積し、働く意欲を失ってしまうことがあります。例えば、自分の考えを自由に発言できない、個性が否定される、あるいは「こうあるべき」といった固定観念を押し付けられることは、心理的な負担を大きくします。

特に、多様性や個々の価値観が尊重されない環境では、部下は職場に居場所を感じられなくなります。こうした状況を改善するには、個人の意見を尊重し、風通しの良い職場環境を作る努力が必要です。

報酬に納得がいかない

給与や待遇に不満があることは、退職理由としてよく挙げられる項目です。同じような業務を行っている他の社員と比較して不公平感を感じたり、努力に見合った報酬が得られない場合、職場への不満が強まります。

また、評価制度が不透明であると、頑張りが報われないと感じてしまうこともあります。報酬の面で部下が納得感を持てるようにするためには、透明性のある評価制度を導入したり、昇給や賞与を適切に反映する仕組みを整えることが求められます。

チームの支えが感じられない

チーム内でのつながりやサポートが不足していると、部下は孤独感や疎外感を抱きやすくなります。例えば、困ったときに誰にも助けてもらえなかったり、意見を無視される経験が続くと、職場を「居心地が悪い」と感じるようになるでしょう。

さらに、上司や同僚とのコミュニケーションが少ない職場では、日常的な支援が受けられず、結果的に退職を決断するきっかけになることもあります。こうした状況を防ぐためには、チームの連携を強化し、メンバー同士が支え合える協力体制を整えることが重要です。

上司とのコミュニケーションが不足している

上司が部下の意見を聞き入れない、もしくは一方的な指示ばかりを与える場合、信頼関係が失われることがあります。部下にとって、自分の声が届かないと感じることは、職場への不満を増大させる要因となります。

特に、課題や悩みを抱えていても相談できない状況では、孤立感を深め、結果的に退職へとつながりやすくなります。定期的な面談や日常のコミュニケーションを通じて、部下の声に耳を傾ける姿勢を示すことが、部下の安心感や信頼感を高める鍵となります。

参考:

World Economic Forum“The ‘resignation equation’: 5 factors that drive employees to quit”

部下の突然の退職を防ぐために明日からできること

以下では、人事や人材開発の専門家を対象とした国際的な組織であるCIPD(Chartered Institute of Personnel and Development)の記事をもとに、部下の突然の退職を防ぐために、明日からすぐに実践できる方法をいくつかご紹介します。

一度にすべてを行う必要はありませんが、日常の小さな工夫を積み重ねることで、部下が安心して働き続けられる環境を作ることができます。

職場の雰囲気を見直す

良い職場の雰囲気は、部下が仕事にやりがいや誇りを持つための大切な土台になります。特に、部下が頑張ったことや成果を具体的に挙げて感謝を伝えると、職場全体に前向きな空気を作ることができます。

例えば、「先週のクライアント対応、君のおかげでスムーズに進んだよ。本当にありがとう」というような声をかけることで、部下のモチベーションを大きく引き上げることができます。

このような日々の小さな声かけを積み重ねて、「ここで働いていて良かった」と思える職場環境を作ることが大切です。

成長できる環境を用意する

部下が「成長している」と感じられる環境を作ることは、退職を防ぐためにとても効果的です。スキルを磨けそうな研修やセミナー、オンラインで学べる講座などを紹介してみましょう。

さらに、「このセミナーは、今後のキャリアに役立つかもしれないね」といった形で具体的に提案すると、部下は自分の成長を上司がしっかり考えてくれていると感じやすくなります。

また、学んだことを業務に生かす機会を提供することで、部下のやる気をさらに引き出すことができます。

短いアンケートをとってみる

部下がどんな不満や希望を持っているのかを知るためには、シンプルなアンケートを取る方法があります。「今の仕事に満足していますか」「職場で改善してほしいことはありますか」といった簡単な質問で構いません。

特に、名前を記入せずに答えられる形式にすれば、部下はより率直な意見を出しやすくなります。集まった意見をもとに、少しずつ職場を改善していくと、部下が「意見を聞いてもらえる」と感じ、安心感が生まれます。

上司としての行動を振り返る

部下の退職を防ぐためには、上司自身の接し方やサポートの仕方を見直すことも必要です。自分の指導や対応に改善の余地がないかを冷静に振り返りましょう。また、部下から直接意見をもらうことも効果的です。

「自分の対応で何か気になるところがあれば教えてほしい」といったように、部下が話しやすい雰囲気を作ることがポイントです。部下の意見を受け入れて少しずつ行動を変えていくことで、信頼関係を強めることができます。

参考:

CIPD“How to stop your best staff leaving”

部下の退職は環境改善のきっかけになる

部下の退職はショックな出来事かもしれませんが、それをきっかけに職場環境を見直し、改善するチャンスと捉えることもできます。離職の理由をしっかりと振り返ることで、職場に潜んでいた課題が見えてくるはずです。そこに気づき、少しずつ働きやすい環境を整えていくことが重要です。

特に気をつけたいのは、無理に引き止めようとすること。一時的に退職を止めたとしても、職場の根本的な問題が解決されなければ、同じことが繰り返されてしまう可能性があります。それよりも、「またこの職場に戻りたい」と思えるような環境を作る方が、長期的に見てチームの信頼や満足感を向上させる結果につながります。

また、退職はチームの結束力を高めるチャンスでもあります。残ったメンバー同士が助け合いながら新しい目標に向けて力を合わせることで、チーム全体の連携が強まることも多いものです。

退職は、個人にとっても組織にとっても、新たなスタートを切るきっかけとなります。この出来事を前向きに捉え、より良い職場環境を作るための一歩を踏み出すことが、未来に向けた大きな成長につながるのではないでしょうか。