「中間管理職の仕事のストレスが大きすぎる…」
「中間管理職がメンタル不調にならないための対策はある?」
このような悩みや疑問を持つ人も多いでしょう。
言うまでもなく、中間管理職は精神的な負担が非常に大きい役職です。中間管理職として働くうちにメンタル不調に陥ってしまうと、最悪の場合は長期間の休養を余儀なくされる恐れがあります。
本記事では、中間管理職がメンタルに不調を抱えやすい原因や、メンタル不調にならないための対策について解説します。メンタルヘルスを向上させたい中間管理職の方は、ぜひ参考にしてください。
中間管理職はメンタルに不調をきたしやすい

中間管理職は非常に負担の大きい役職であり、疲労やストレスから、メンタルに不調をきたす人は少なくありません。
マイナビ転職が管理職を対象に実施した調査でも、「管理職になって、人生はどう変わったか」との問いに対して、68.9%が「心身の健康が損なわれた」と回答しているほどです。
おそらく多くの人が、理想的なキャリアを歩むためには、長く健康的に働き続けることが何よりも重要だと理解しているでしょう。
しかし、中間管理職として働くうちにメンタル不調に陥ってしまうと、最悪の場合、長期間の休養が必要となり、自身のキャリア形成に遅れが生じる恐れがあります。
このような事態を防ぐためには、中間管理職のメンタルに不調をもたらす原因を理解したうえで、自分に合った対策を講じることが大切です。
参考:
マイナビ転職「「管理職になって良かった」と感じている人は約6割。一方で、管理職になって心身の健康が損なわれた人は約7割。」
中間管理職がメンタル不調を抱えやすい原因

中間管理職のメンタルに不調をもたらす主な要因について解説します。
板挟みになる
中間管理職は、社内の上層部(部長や役員など)と、自分の部下との間で「板挟み」になることがよくあります。
たとえば、営業部の課長であれば、部長からは「もっと売上を伸ばせ」とプレッシャーをかけられ、部下からは「これ以上は難しい」「もう少し仕事の量を減らしてほしい」といった不満をぶつけられることがあるでしょう。
このように、上層部と部下の双方から相反する要望を突きつけられ、板挟みになることをつらいと感じている中間管理職は多いようです。
実際に、株式会社ビズヒッツが中間管理職に対して行ったアンケート調査でも、「中間管理職が辛いと感じる瞬間」として、最も多かったのが「板挟みになるとき(約50.8%)」という意見でした。
こうした板挟みが起こる原因として、組織の業績管理を担う上層部と現場で働く従業員が、お互いの状況や考えを十分に理解できていないことが考えられます。
したがって、中間管理職としては、上層部および部下の双方とこまめにコミュニケーションを取り、相互理解を深めるように働きかけることが大切です。
部下の育成がうまくいかない
中間管理職の重要な責務の一つとして、部下を育成することが挙げられます。しかし、中には部下の指導や教育がうまくいかず、大きなストレスを感じてしまう人も多いようです。
実際に、厚生労働省が行った「令和5年度 能力開発基本調査」でも、79.8%もの企業が「能力開発や人材育成に関して何らかの問題がある」と回答しています。以下は、その問題点として挙げられた主な意見です(括弧内は該当企業の割合)。
- 指導する人材が不足している(57.1%)
- 人材を育成しても辞めてしまう(53.2%)
- 人材育成を行う時間がない(47.6%)
上記を見ると、部下の育成がうまくいかないのは中間管理職だけの責任ではなく、会社全体の教育体制に問題があると考えられます。
そのため、中間管理職は部下育成の責任を一人で抱え込まず、社内のさまざまな関係者とも協力しながら、会社全体で部下を育てていくように働きかけることが大切です。
また、どうしても育成に時間をかけられない場合は、外部の研修サービスやツールなどを活用して、効率的に育成を進めることも有効な手段です。
仕事量が多い
一般社員の頃は自分の仕事をこなせばよかったのに対して、中間管理職になると追加で部下に仕事を割り振ったり、進捗を管理したりしなければならず、業務量が一気に増えます。
仕事量が膨大になった結果、その負荷に耐えきれず、メンタルに不調をきたす中間管理職も少なくありません。
とくに近年では、働き方改革によって部下に残業を強いることが難しくなったため、中間管理職の負担はさらに増しているとされています。
以下は、パーソル総合研究所が実施した「中間管理職の就業負担に関する定量調査」の結果の一部です。
同調査では、対象となった管理職を仕事の負担感が大きいグループ(高群)と、そうでないグループ(低群)に分けています。この結果を見ると、とくに「高群」では仕事量の多さが原因で、さまざまな問題が生じていることがわかります(数値は該当者の割合)。
項目 | 高群 | 低群 |
---|---|---|
管理職になって残業が増えた | 47.7% | 40.2% |
学びの時間を確保できない | 63.0% | 41.1% |
時間不足から付加価値を生む業務に着手できない | 64.7% | 38.7% |
中間管理職は一般社員よりも給料が高い分、ある程度業務量が多いのは仕方がないことです。
しかし、メンタルに悪影響をおよぼすほど働かなければならない場合は、明らかに負担が大きすぎるといえます。
そのため、部下に仕事を適切に割り振るなどして、自身で負担を軽減する工夫を凝らすことが大切です。
責任が重い
中間管理職は、非常に責任の重い立場です。
一般社員であれば、基本的には自身の仕事の成果や行動についてだけ責任を負えば済みます。しかし、中間管理職になると自分のことだけではなく、部下の成績や言動に対しても責任を持たなければなりません。
たとえば、仕事上で重大なミスを犯した部下がいた場合、たとえその部下が100%悪かったとしても、「上司として指導や教育の方法に問題があった」とみなされてしまうことがあります。
このような責任の重さからプレッシャーを感じ、その積み重ねがやがてメンタル不調につながるケースも多いでしょう。
中間管理職は、気づかないうちにストレスが溜まりがちなため、日頃から自身のメンタルヘルスに気を配り、ケアを行うことが重要です。
参考:
PR TIMES「【中間管理職がつらいと思う瞬間ランキング】238人アンケート調査」
中間管理職がメンタル不調にならないための対策

中間管理職がメンタル不調に陥らないために、日頃から意識しておくべきポイントを紹介します。
コミュニケーションによって板挟みを解消する
先ほども述べたように、中間管理職が上層部と部下の間で板挟みになるのは、上層部と部下の相互理解が不足していることが原因と考えられます。
そのため、中間管理職は上層部および部下の双方と密にコミュニケーションを取り、お互いの理解が深まるように働きかけることが重要です。
その際に中間管理職が意識すべきポイントとして、ハーバード・ビジネス・レビューの記事では以下の2点を挙げています。
- 上層部に対して: 職場が抱えている問題について、具体的なデータを示したり、実際に体験させたりすることで理解してもらう
- 部下に対して: 会社としてどのような成果を求めているのか、その理由や背景から丁寧に説明することで理解してもらう
例えば、上層部からは「もっと売上を伸ばせ」と言われ、部下からは「これ以上は無理です」と訴えられている場合は、下記のように対応するとよいでしょう。
▼【具体例】上層部と部下の相反する要望への対応
相反する要望 | 対応 |
---|---|
【上層部】「もっと売上を伸ばせ」 | 部下の残業時間が増えているデータを示し、「現状のままでは、売上を伸ばすのは難しいです。人員を増やしたり、新しいツールを導入したりすることを検討していただきたいです」と伝える |
【部下】「これ以上成果をあげるのは無理です」 | 「今期は会社全体で売上10%アップを目指しており、当部署は15%アップが目標となっています。キツいことは理解しているので、どうすれば目標を達成できるか、一緒に考えましょう。また、皆さんの業務負担が少しでも軽減できるよう、私が上層部にも掛け合いますね」と伝える |
研修やツールを活用する
部下を育成することは中間管理職の重要な責務の一つですが、現実的に指導・教育にどうしても時間が割けない人も多いでしょう。
そのような場合は、社内外で実施されている研修を活用するのも有効な手段です。
研修に参加させることで、中間管理職は自身の時間を消費することなく、業務に必要な知識を部下に効率的に習得させることができます。
たとえば、部下のプレゼンテーション能力に課題があると感じたら、社内外で実施されているプレゼン研修を受講させるとよいでしょう。
もちろん、研修で学べるのはあくまで基本的な知識であり、受講するだけですぐに成果につながるわけではありません。しかし、基礎知識がしっかりと備わっていれば、その分実務を通じてスキルアップするスピードも早まるはずです。
また、近年ではAI技術の進化によって業務効率化ツールが数多く登場しており、これらを部下の育成に用いるのも一つの手です。
実際に、リコーリース株式会社ではコールセンターにAIチャットボットを導入したことで、新人教育にかかる時間を大幅に削減できたといいます(新人に対するトレーナー1人あたりの指導時間が月3時間削減された)。
部下に仕事を割り振る
中間管理職は仕事量が非常に多く、一人ですべてこなそうとすると、必然的に長時間労働になってしまいます。長時間労働が慢性化すれば、十分な休息がとれず、メンタル不調に陥る可能性も高くなるでしょう。
このような状態を避けるために、中間管理職は自身の仕事を積極的に部下へ割り振ることが大切です。
仕事を部下に任せることは、ただ中間管理職自身の負担を減らすだけでなく、部下が多様な業務を経験することで、幅広い知識やスキルを習得できるという利点もあります。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、部下に効果的に仕事を割り振るためのポイントとして、以下の6点が挙げられています。
- 意識改革: 管理職としての評価は、自分自身のパフォーマンスではなく、「チームとして目標を達成できたか」で決まると理解する
- タスクの洗い出し: 現在自分が担当している仕事を、定型業務から大型プロジェクトまで、すべてリストアップする
- 仕事の割り振り: 洗い出した仕事の中から、部下でも遂行できるものはすべて割り振る。その際、部下それぞれの強みやキャリアプランも考慮する
- 丁寧な説明: どのような仕事を任せるのか、なぜ任せるのか、どのような成果を期待しているのかを、部下に詳しく説明する(決して仕事を丸投げしない)
- 重要業務に集中: 中間管理職である自分にしかできない業務(例:部下の人事評価、営業戦略の策定など)に時間を割く
- 進捗確認: 部下の仕事の進捗状況を定期的に確認し、フィードバックを行う
セルフケアを怠らない
くり返し述べているように、中間管理職は精神的な負担が非常に大きい役割です。
ストレスの蓄積によりメンタルヘルスが大きく損なわれる前に、日頃から「セルフケア」を怠らないことが重要です。
セルフケアとは、「自分の心と体の健康を、自分自身で維持・管理する活動」を指します。たとえば、仕事以外の時間に趣味に没頭することも、セルフケアの一種です。
ハーバード・ビジネス・レビューの記事によれば、セルフケアには心身の健康を促進する効果があることが、過去の研究結果からも明らかになっているといいます。
同記事では、セルフケアを効果的に行うためのポイントとして、以下の5点を挙げています。
ポイント | 具体例 |
---|---|
【自分に合った方法を見つける】効果のあるケア方法には個人差がある | 元々体を動かすことが好きなので、運動を日常に取り入れる |
【短時間で行う】行動に移すハードルが低ければ、気軽に継続しやすい | 毎朝自宅の周辺を10分間散歩する |
【スケジュールに組み込む】セルフケアの時間をあらかじめ確保しておく | 毎朝6時から10分間をセルフケアの時間とし、忘れないようアラームを設定する |
【まずは試す】興味のあるケア方法があればすべて試してみる。もし効果がなければ、また別の方法を試せばよい | テレビで瞑想について特集しており、気になったのでとりあえず試してみる |
【部下に共有する】効果があると感じたケア方法は部下にも共有する。部下がセルフケアに関心を持てば、職場全体のメンタルヘルスが向上する | 観葉植物を育て始めてからストレスが軽減されたため、部下にも勧めてみる |
参考:
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「中間管理職は上司と部下で矛盾する要求にどう対処すべきか」
RICOH「新人育成と処理効率アップに貢献!「RICOH Chatbot Service」がコールセンターのナレッジ管理を一新」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「仕事を任せられないリーダーは、ステップアップできない」
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「真面目なリーダーだからこそ、セルフケアが必要だ」
まとめ
中間管理職がメンタルに不調を抱えやすい原因や、メンタル不調にならないための対策について解説しました。
中間管理職は精神的な負担が非常に大きい役割です。中間管理職として働くうちにメンタル不調に陥ってしまうと、最悪の場合は長期間の休養を余儀なくされる恐れもあります。
メンタルヘルスを向上させたい中間管理職は、本記事の内容をもとに、日頃から適切な対策を講じることを心がけてください。