メンタル不調とは、ストレスや疲労などが原因で、こころの健康状態が損なわれている状態を指します。

部下が職場でメンタル不調を抱えているにもかかわらず、何も対処せずに放置してしまうと、症状が悪化し、最悪の場合は休職や退職に至る恐れがあります。

本記事では、部下のメンタルヘルスを放置せず、適切に対処するために、上司が意識すべきポイントを解説します。

部下のメンタルヘルスを向上させ、誰もが働きやすいと思える職場環境づくりを目指す方は、ぜひ参考にしてください。

メンタル不調を抱える部下は多い

以下は、株式会社パーソル総合研究所が社会人男女を対象に実施した調査結果の一部で、「過去3年以内に職場でメンタル不調を経験した人」の割合を性別・年代別にまとめたものです。

男性女性
20代18.5%23.3%
30代15.5%15.0%
40代14.8%15.6%
50代10.2%12.4%
60代5.6%8.1%

この調査結果から、メンタル不調を抱える部下が職場内にいる可能性は決して低くないことが明らかです。

また、とくに若手従業員ほどメンタル不調に陥りやすい傾向が見てとれます。若手従業員はまだ社会人経験が浅い分ストレスへの耐性が弱く、些細なきっかけでメンタルに影響を受けやすいのかもしれません。

年齢や立場に関係なく、すべての従業員にとって長く健康的に働くことが何よりも大切なはずです。

メンタル不調を抱える部下を放置せず、適切に対処することでその回復を支援するのも、上司としての重要な責務の一つといえます。

参考:

PR TIMES「「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」を発表 若年層で増える深刻なメンタルヘルス不調」

部下のメンタル不調を放置することで起こる問題

部下のメンタル不調を放置すると、やがては仕事だけでなく、日常生活にも支障をきたす可能性が高いです。 そうなれば、仕事を続けることが困難になり、最終的には退職に追い込まれてしまうかもしれません。

先ほど紹介したパーソル総合研究所の調査でも、メンタル不調を経験した人のうち、25.3%は「(最終的に)退職した」と回答しています。

また、一人の部下がメンタル不調で離脱すると、その部下が担当していた仕事は必然的に他の従業員が引き継がなければなりません。 

その結果、仕事を追加された従業員の負担が増え、疲労やストレスも大きくなり、新たなメンタル不調者を生み出す悪循環に陥る恐れがあります。

実際に同調査でも、メンタル不調になった部下の業務のしわ寄せによって、「他の部下が疲弊していた(45.2%)」「他の部下もメンタル不調になった(26.1%)」という意見が多く挙げられています。

もちろん、新たな人員を補充すれば、上記のような問題は解決できるかもしれませんが、その分、余計な採用コストや指導・教育の手間が発生するでしょう。

何よりも、大切な従業員が退職に追い込まれてしまう状況は、組織にとって好ましいものではないため、部下のメンタル不調は放置するべきではないといえます。

部下がメンタル不調に陥る原因

部下がメンタル不調に陥る原因として、とくに多いものを紹介します。

人間関係

株式会社MS-Japanが実施した調査によると、メンタル不調を経験した人がその原因として、最も多く挙げた意見が「職場での人間関係(61.4%)」でした。

人にはそれぞれ相性があり、職場に苦手な人が一人や二人いるのは自然なことです。

会社ではときに、そうした苦手な相手とも一緒に仕事をしなければならない場面が出てきます。そうなると、日々大きなストレスを感じながら働くことになり、やがてメンタルにも不調をきたしてしまうのでしょう。

もちろん、全従業員の相性を考慮して人員を配置するのは困難ですし、上司にそこまでの義務はありません。

しかし、メンタル不調に陥るほど人間関係に問題が生じている部下がいる場合は、異動や配置転換といった対処が必要になるかもしれません。

ハラスメント

先ほど紹介したMS-Japanの調査で、メンタル不調の原因として二番目に多く挙げられた意見が「ハラスメント(47.1%)」です。

ハラスメントにはさまざまな種類がありますが、職場内でとくに多いのは「パワーハラスメント(パワハラ)」と「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」でしょう。

厚生労働省では、パワハラとセクハラの定義を以下のように定めています。

定義具体例
【パワハラ】職場において行われる、以下の3つの要素をすべて満たすもの① 優越的な関係を背景とした言動② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの③ 労働者の就業環境が害されるもの・上司が部下に対して、他の従業員が見ている前で大声で怒鳴りつける・会議室に長時間拘束し説教し続ける
【セクハラ】職場において行われる「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されること・相手が断っているにもかかわらず、しつこく食事に誘う・必要なく身体に触れる

ハラスメントは従業員を精神的に追い詰める行為であり、日常的に続けばメンタル不調に陥ってしまうのも無理はありません。

上司はまず自分自身が部下に対してハラスメントを行うことがないよう、自らの日々の言動を振り返る必要があります。

また、万が一他の従業員がハラスメントを行っているところを見聞きした場合は、厳正に対処することも重要です。

長時間労働

人が長く健康的に働き続けるためには、日々十分な休息をとることが必要不可欠です。しかし、毎日のように長時間労働が続けば、十分な休息がとれず、心身に不調をきたす可能性が高まるでしょう。

MS-Japanの調査でも、メンタル不調の原因として三番目に多く挙げられた意見が「長時間労働/業務過多(45.7%)」だったといいます。

部下の長時間労働を防ぐためには、上司がメンバー一人ひとりの労働時間や業務量をこまめに確認することが大切です。

そのうえで、もしメンバー間で業務量に偏りが生じている場合は、仕事を割り振り直すなどして負荷を極力均等にし、長時間労働が起きないよう対策する必要があります。

参考:

MS-Japan「MS-Japanが「メンタル不調」調査公開。「約4割」が「部下のメンタル不調」経験」

あかるい職場応援団「「ハラスメント基本情報」ハラスメントの定義」

部下のメンタル不調は放置しない!上司がとるべき対処法

部下のメンタル不調を放置せず適切に対処するために、上司が心がけるべきポイントを解説します。

メンタル不調の兆候を知る

部下のメンタル不調を悪化させないためには、早い段階で対処することが重要です。しかし、部下が自身のメンタル不調を自覚していたとしても、そのことを上司に相談するとは限りません。

先ほど紹介したパーソル総合研究所の調査でも、メンタル不調を経験した人のうち、上司に相談・報告したのはわずか30.6%だったといいます。

また、上司に相談・報告しなかった理由としては、「相談しても解決につながらないと思ったから(34.5%)」「相談できる関係性ではなかったから(21.0%)」「相談する精神的余裕がなかったから(17.3%)」などの意見が多く挙げられています。

この結果から、部下は自身のメンタル不調について、必ずしも自分からSOSを出せるわけではないことがわかります。だからこそ、部下のメンタル不調に早期対応するためには、上司が部下の異変に気づくことが大切です。

メドピア株式会社が産業医を対象に行った調査では、従業員がメンタル不調になっている可能性が考えられる兆候として、以下のようなものが挙げられています。

  • 遅刻や欠勤が増える
  • 表情が暗くなる
  • ミスが増える/作業効率が落ちる
  • 睡眠が不足する
  • 口数が減る

もし、それまで元気に働いていた部下に上記のような変化が見られたら、メンタル不調のサインかもしれません。これらの兆候を知っておけば、たとえ部下から直接相談がなくても異変に気づくことができ、早急な対処が可能になるでしょう。

上司自身がメンタルヘルスについて共有する

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、従業員はメンタル不調を抱えていても、そのことを周囲に隠す傾向があるといいます。

メンタル不調を共有する=自分の弱さをさらけ出すことを意味し、「自分を強く見せたい」「弱いのは恥ずかしい」といった心理が働くためかもしれません。

このような状況を防ぐためには、上司が自身のメンタルヘルスについて、日頃から積極的に共有することが重要です。

上司が自ら弱さを見せることで、部下も「強がらなくてもいいんだ」と感じ、自身のメンタルヘルスについてオープンに話しやすくなると期待できます。

また、従業員が自分のメンタルヘルスをオープンにできる職場であれば、周囲も適切なサポートがしやすくなるでしょう。

たとえば、ある部下が「最近不眠症気味で薬を飲んでいます。もし仕事中にぼーっとしていることがあれば、薬の影響かもしれません」と事前に知らせてくれたらどうでしょうか。

仮に、仕事中その部下が注意力散漫に見えた場合でも、薬の影響だとすぐに理解できます。さらに、その部下が薬を服用している期間は仕事の量を調整するなど、適切な対応もとりやすくなるはずです。

打ち明けてくれたら感謝を伝える

部下が自身のメンタルヘルスについて、上司である自分に打ち明けてくれた場合は、まずは感謝の気持ちを伝えることが大切です。

先ほども述べたように、多くの部下はメンタル不調について報告・相談するのをためらう傾向にあるため、上司に話すのには相当な勇気が必要だったはずです。

その勇気を感謝の言葉で称えることで、たとえすぐに有効な解決策が見つからなかったとしても、部下は「上司に打ち明けてよかった」と感じ、気持ちが少しは楽になるでしょう。

その上で、ハーバード・ビジネス・レビューの記事では、部下のメンタル不調に関する相談に乗る際のポイントとして、以下の3点を挙げています。

  • 話を聞くことに集中する:部下がどのような悩みを抱えており、どのような対応を求めているのかに耳を傾ける。不必要に情報を引き出そうとする質問は避ける
  • 自分の経験をもとにしない:仮に自分が部下と似たような経験をしたことがあっても、それをもとに意見を述べるべきではない。メンタル不調の症状やそれに至る背景は人それぞれであり、自分と同じ解決策が部下にも通用するとは限らない
  • 秘密を守ると約束する:部下は周囲に自身のメンタル不調について知られたくないと考えている可能性が高い。相談された内容は二人だけの秘密だと約束し、安心させる

仕事の負荷を減らす

部下がメンタル不調を抱えているとわかったら、精神的な負担を少しでも軽減できるよう、上司が適切に対応することが重要です。

たとえば、睡眠障害によって朝早くからの始業が難しい部下には、時差出勤やテレワークなど、柔軟な働き方を認めることが有効かもしれません。また、仕事量も減らし、できるだけ責任の軽い小さなタスクを割り当てるのがよいでしょう。

ただし、メンタル不調は状態によっては、一定期間休養をとって治療に専念する方が良い場合もあります。素人判断で症状を悪化させてしまうと、回復までさらに時間を要してしまうかもしれません。

もし、今後の対応について判断に迷った場合は、産業医などの専門家に相談するのも一つの手です。

参考:

PR TIMES「産業医500人に聞いた「従業員のメンタル不調の原因」、1位は長時間労働ではなく「上司との人間関係」」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「メンタルヘルスのことを職場でもっと話す必要がある」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下にメンタルヘルスの問題を打ち明けられたら、どう対応すべきか」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「鬱で苦しむ部下のために上司は何ができるのか」

まとめ

職場で部下が何らかの原因によって、メンタルに不調を抱えるケースは決して少なくありません。もし、その状態を放置してしまうと症状が悪化し、最悪の場合、休職や退職につながる恐れがあります。

したがって、部下の様子に何かしらの異変を感じた場合には注意深く観察し、状況に応じて適切に対処することが重要です。

本記事でご紹介した内容を実践し、部下のメンタルヘルスを向上させ、誰もが働きやすいと思えるような職場環境づくりを目指してください。