短い面接の場で大量の情報を処理しなければならない採用担当者は、「なんとなく良さそう」「社風に合いそう」といった直感に頼りがちです。

この直感の裏に潜むのが「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」です。悪意がなくても発生するバイアスは、優秀な人材を見逃し、組織の多様性を阻害するリスクがあります。

本記事では、アンコンシャス・バイアスが採用に及ぼす影響と、その対策について最新の研究に基づいて解説します。読み進めることで、誰でも今日から実践できる具体策が見えてくるはずです。

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面接に潜むアンコンシャス・バイアスとは

アンコンシャス・バイアスとは、自分の経験や価値観、社会的なステレオタイプに基づいて、無意識のうちに相手を特定の枠に当てはめてしまう心理的な傾向を指します。

採用面接では面接官が候補者の話を聞きながら評価を下すため、脳が情報処理の近道(ヒューリスティック)に頼る傾向が強くなります。その結果、「文化に合うかどうか」や「一緒に飲みに行けそうか」といった曖昧な基準が「相性が良さそうだから採用」という判断にすり替わりやすいと、ハーバード・ビジネス・スクールは指摘しています 。

こうした曖昧な言い方は、無意識な偏りを正当化する言い訳になってしまいがちです。

面接でよく見られるバイアスの例

アンコンシャス・バイアスは誰にでも生じるため、まずは自分がどのようなパターンに陥りやすいのかを知ることが大切です。以下は採用面接で頻繁に見られる代表的なバイアスです。

バイアス名心理的メカニズム面接での具体的な兆候
ハロー効果ひとつの目立つ長所に引きずられ、他の能力まで高く評価してしまう「有名大学出身だから論理的思考力も高いに違いない」と決めつける
ホーン効果一点の短所によって人物全体を過小評価する服装が乱れているだけで「仕事が雑そうだ」と結論づける
類似性バイアス自分と共通点のある相手に無条件で好意を抱く出身地や趣味が同じという理由だけで能力を高く見積もる
確証バイアス最初の印象を裏付ける情報ばかり集め、反証を無視する「積極性がない」と感じた候補者に難しい質問ばかりして意見を変えない
ステレオタイプ・バイアス性別・年齢・人種などの固定観念で評価を歪める「女性だからサポート業務が得意だろう」と役割を決めつける

こうしたバイアスは経験豊富な面接官でも避けることが難しいとされます。ハーバード・ビジネス・スクールの記事では、面接官が「直感」や「相性」で正当化してしまうためにバイアスが自覚されにくいと指摘しています 。

参考:

Harvard Business School“Improve Decision Making & Avoid Pitfalls in Hiring” 

日本の人事部「面接官トレーニング」 

NIH National Library of Medicine“Strategies to Mitigate Unconscious Bias in the Recruitment and Hiring Process” 

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なぜ採用でアンコンシャス・バイアスに陥りやすいのか

バイアスが生まれるのは個人の性格の問題ではなく、採用プロセスそのものが持つ構造的な課題にあります。面接官は、候補者の話を聞きながら次の質問を考え、評価シートに記入し、表情や態度も観察しなければならないという高い認知的負荷を抱えています。

Googleの採用ガイドは、採用面接のような初対面では、人間が自覚しないうちにスナップ判断(第一印象に基づいて瞬時に判断すること)を下し、既存の無意識の偏見や信念に大きく影響されると指摘しています 。こうした状況では直感に頼るため、バイアスが入り込みやすいのです。

国内データに見る無意識のバイアス

日本でも属性によるバイアスが採用結果に影響を与えていることが調査から明らかになっています。

パーソル総合研究所の無意識のバイアス調査によると、履歴書のスキルや経歴が同じ条件であっても、一般的な男性名と女性名を付けた場合で採用意向に11.3ポイントの差が生じ、女性名の方が低く評価されました。

また、「子どもがいる」という条件が加わると、女性候補者の評価がさらに低下し、男性候補者では影響がほとんど見られないという結果も報告されています 。これは、候補者の能力と無関係な属性が判断に影響していることを示しています。

「カルチャーフィット」という名の偏り

多くの企業では「カルチャーフィット(企業文化への適合)」を重視しています。

しかし、ハーバード・ビジネス・スクールの研究者は、この概念が「一緒に飲みに行けるかどうか」といった主観的な基準と混同されやすく、無意識のうちに自分に似た人物を選んでしまう危険性があると指摘します 。

似た経歴や趣味を持つ人を選ぶ類似性バイアスは多様性を損ない、イノベーションの停滞を招きます。

情報の空白が生むバイアス

エントリーシートや履歴書だけでは候補者についての情報が限られており、その空白を無意識の推測で埋めてしまうこともバイアスの原因になります。

採用プラットフォームを提供するAdafaceの調査によると、オンライン上で候補者の情報が見つからない場合、連絡を控える採用担当者が一定数おり、多くの担当者が直感に頼って評価をしていることが報告されています。

そのため、採用過程では情報の空白をなくすとともに、直感に頼らない仕組みを整えることが重要です。

参考:

パーソル総合研究所「無意識のバイアス調査結果」 

Frontiers in Psychology“Cognitive Load and Interviewee Behavior” 

Adaface“Blind Hiring Statistics” 

Harvard Business School“Improve Decision Making & Avoid Pitfalls in Hiring” 

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アンコンシャス・バイアスを防ぐための対策

バイアスを完全に消し去ることは難しくても、採用の仕組みを工夫することでバイアスが入り込む余地を減らすことはできます。ここでは企業で実践されている代表的な方法を紹介します。いずれも複雑な準備を要しますが、実施する価値は大きいと研究で示されています。

構造化面接を採用する

構造化面接とは、すべての候補者に対してあらかじめ決めた同じ質問を同じ順序で行い、その回答を事前に定義した基準で評価する方法です。

Googleが運営する採用ガイド「re:Work」は、複数の研究を引用し、構造化面接が非構造化面接よりも候補者のパフォーマンスを予測する力が高く、公平性も向上することを示しています。

面接官が直感に頼るのではなく、同じ質問と評価基準で候補者を比べる仕組みが重要です。

評価ルーブリックを用いる

構造化面接を実施する際には、何をもって「良い回答」とするのかを定義した評価ルーブリック(採点基準表)が必要です。

例えば「問題解決能力」を評価する場合、「受動的に指示を待った」場合は1点、「決められた手順に沿って処理した」場合は3点、「原因を自ら特定し再発防止策まで講じた」場合は5点、といった具合に具体的な行動指標を設定します。

これにより面接官ごとの評価のバラつきを抑え、客観的な比較が可能になります 。

属性情報を遮断するブラインド採用

書類選考の段階で氏名・性別・年齢・顔写真・出身大学名などの個人情報をマスキングする「ブラインド採用」も、バイアスの影響を軽減するために有効です。

米国のオーケストラで行われたブラインド・オーディションでは、性別を伏せることで女性が採用される確率が25〜46%増加したと報告されています 。

このように、氏名や経歴を伏せてスキルや成果物のみで判断する手法は、属性によるバイアスを抑えるのに有効です。

海外事例に学ぶバイアス対策

世界の大手企業は、ダイバーシティと公平性を高めるために、プロセス改革とテクノロジーの導入を進めています。以下は主な事例です。

  • ユニリーバ – 消費財大手のユニリーバは、新卒採用で履歴書によるスクリーニングを廃止し、オンラインゲームやAIによる録画面接を導入しました。AIが候補者の回答を分析することで初期選考を自動化し、人間のリクルーターが介在する段階でのバイアスを抑えた結果、選考時間が大幅に短縮され多様性が向上しました。
  • ボーダフォン – 通信大手のボーダフォンは、履歴書から性別や年齢を削除する「ブラインドCV」を導入し、2030年までに管理職の40%を女性とする目標を掲げています。同社の年次報告書によると、管理職に占める女性比率は既に35%に達しており、目標に向けて前進しています 。
  • GapJumpers – 米国発のプラットフォーム GapJumpers は、応募者にコードやデザインなどの実技課題を提示し、誰が作ったかを伏せたまま成果物のみで評価する仕組みを提供しています。この方法により、学歴や経歴に関係なく実力で評価され、マイノリティや女性の応募者が一次面接に進む確率が約40%向上したと報告されています 。
  • Amazon の失敗例 – EC 大手の Amazon は過去に AI を用いた履歴書評価システムを開発しましたが、訓練データに男性が多かったため、システムが男性を好ましい特徴として学習してしまいました。履歴書に「女性」という単語が含まれているだけで評価が下がるなど、性別による不公平な評価が見つかったため、このプロジェクトは中止されました。この事例は、AI を利用する際に学習データの偏りを監視しなければバイアスが増幅される危険があることを示しています 。

参考:

Google re:Work“Use structured interviewing” 

ResearchGate“Asking applicants what they would do versus what they did do” Forbes“The Benefits And Shortcomings Of Blind Hiring In The Recruitment Process” 

Vodafone“Annual Report 2024 / Diversity and Inclusion” 

Reuters“Amazon scraps secret AI recruiting tool that showed bias against women” 

GSD Council“Unilever’s AI-Powered Recruitment Revolution” 

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バイアス対策は競争力への投資

アンコンシャス・バイアスを完全に消すことはできませんが、採用プロセスを科学的に設計し直すことで影響を最小限にすることは可能です。

構造化面接や評価ルーブリック、ブラインド採用などの手法は、初めは手間がかかるように感じるかもしれません。しかし、これらの仕組みを整えることで、本来の能力やポテンシャルに基づいて人材を評価できるようになり、結果的に多様性と競争力を高めることにつながります。

また、ユニリーバやボーダフォンの事例が示すように、テクノロジーと明確な目標を組み合わせることで、公平性と効率性の両立が可能です。

採用担当者の皆様は、直感に頼るのではなく、データと科学に基づいたプロセスを取り入れることで、組織の未来を担う人材を正しく見極めることができます。本記事で紹介したアプローチを参考に、ぜひ自社の採用活動の各段階で実践してみてください。

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