女性が活躍できる環境を整えることは、企業にとって業績やイノベーション力の向上だけでなく、人材の確保や組織の活性化といった面でも大きなメリットがあると考えられています。
本記事では、日本における女性活躍の現状と、その背景にある課題を整理したうえで、女性登用がもたらすメリットや、管理職として具体的に実践できる方法を分かりやすく紹介します。
日本における女性活躍の現状

「男女共同参画白書(令和5年版)」では、女性は就業者全体のおよそ半数(44.7%)を占めている一方、管理的職業の割合は13%程度にとどまっていると報告されています。2022年時点の民間企業を見ても、女性管理職は係長級で24.1%、課長級で13.9%、部長級に至っては8.2%という数字が示されており、男性が依然として大半を占める状況です。
政府は「2030年までに指導的地位の3割を女性が占める」目標を掲げていますが、これらの数値を考えると、実現にはまだ時間がかかりそうです。内閣府の調査によると、管理職を目指す女性自体が少ないことも課題で、男性の50.5%が「管理職になりたい」と答えているのに対し、女性は33.6%にとどまるとのことです。
背景には、仕事と家庭の両立が難しいことや、女性自身が昇進に前向きになりにくい雰囲気など、さまざまな要因があるでしょう。
参考:
Mirai Works「日本企業の女性管理職比率は? 課題と対策」
女性活躍を推進するメリット

女性を含むさまざまな人材を積極的に登用することは、企業の業績や組織全体の活力を高めると考えられています。以下では、実際にどのようなメリットがあるのか、4つの視点から紹介します。
企業の業績向上につながる
アメリカの非営利団体「Catalyst」の調査によると、アメリカの経済誌『フォーチュン』が選ぶ上位企業(フォーチュン500)で女性幹部の割合が高い会社は、そうでない会社より自己資本利益率(ROE)が35%ほど高いと報告されています。
また、ハーバード大学が公開する記事には男女の比率が半々のチームは男性のみのチームと比べて売上や利益率が高いことが示されており、女性リーダーを含む多様な経営チームが企業成績を押し上げる可能性をうかがわせます。
意思決定とイノベーションの強化
いろいろな背景や考え方を持つ人が集まると、ものごとを多角的に見られるため、意思決定の質が向上したり、新しいアイデアが生まれやすくなったりします。
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の調査によると、組織の多様性が高いほどイノベーションによる収益が19%上がるというデータもあり、経営陣にさまざまな視点が加わるほど、新たな市場開拓の可能性も高まるといわれています。
女性ならではの発想や市場感覚が活かされれば、製品開発や課題解決において強みを発揮できるでしょう。
人材確保とエンゲージメント向上に貢献
女性が活躍できる職場は、社員にとって魅力的な職場だと見なされることが多く、結果として優秀な人材が集まりやすく、定着率も高まる傾向があるとされます。
国際的なサービス企業ソデクソ(Sodexo)では、多様性を推進する取り組みが、従業員のエンゲージメントを高める主要な要因の一つとなっているという報告があり、こうした活動は企業イメージや投資家からの評価(ESG評価)の向上にもつながると考えられます。
ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の頭文字を取った略称で、企業が持続可能な経営を行っているかを見る基準の一つです。
海外に学ぶ女性活躍推進の成功事例
「30% Club」は、取締役会における女性比率を30%以上にする目標を掲げ、企業のトップ自らが主体的に取り組んだ事例として有名です。その結果、ロンドン株式市場の主要企業(FTSE350)全体で、女性取締役の割合が短期間で30%に達し、2024年には40%を超える見込みだといわれています。
男性を含む経営陣がコミットし、継続的に働きかけることで、比較的短い期間でも大きな変化をもたらすことができた好例と言えるでしょう。
参考:
The Bottom Line: Corporate Performance and Women’s Representation on Boards” (Catalyst, 2007)
Harvard Business Review”How and Where Diversity Drives Financial Performance”
30% Club”September 2019 saw women’s representation…”
管理職が実践できる女性活躍推進策

女性社員の力を十分に活かすために、管理職が主導して取り組めることはたくさんあります。以下では、具体的にどのような施策を行うと効果的かを、いくつかの視点から紹介します。
働きやすい制度と環境を整える
女性が長くキャリアを続けられるよう、在宅勤務やフレックスタイム制度の導入など、働きやすいルールと環境づくりが大切です。
特に管理職が率先して有給休暇を取得したり、定時退社日を設定するなど、ワークライフバランスを尊重する姿勢を見せることで、職場全体にも「働きやすさ」を浸透させることができます。
公平な評価と管理職への登用を進める
評価や昇進の際、「女性より男性のほうが管理職向き」といった無意識の偏見が入らないかを注意深く確認しましょう。成果や能力を基準にしたうえで、昇進候補にはあえて女性もリストに含めるようにするなど、意図的に候補者の幅を広げる取り組みが効果的です。
採用時点でも女性候補を増やす努力をすると、管理職候補の母集団を大きくすることができます。
女性社員のキャリア形成をサポートする
女性部下のなかには「最初は管理職を目指していなかった」という人が少なくないとされます。そこで、定期的な1on1面談やメンター制度などを活用し、キャリア目標を話し合う機会を作り、管理職への挑戦を後押ししましょう。
先輩管理職との交流や外部の研修に参加できる仕組みがあると、本人も「自分も挑戦してみよう」という気持ちになりやすくなります。
多様性を尊重する企業文化を育む
管理職自身がダイバーシティの重要性をアピールし、職場の雰囲気を変えていく役割を担うことも大切です。会議で女性社員の意見を積極的に引き出す、育児中の社員のフォロー体制を整えるなど、具体的な行動を起こしてこそ職場は変わります。
女性だけでなく、男性社員にも「女性活躍の意義」を理解してもらうことで、チーム全員が協力しやすくなるでしょう。
具体的なステップを踏んだアクションプラン
では、ここまでのポイントをもとに、管理職が自社で取り組める具体的なアクションプランを、段階に分けて整理してみましょう。
1. 自社の現状を把握し、数値目標を立てる
まずは女性比率や管理職数、離職率などをデータで洗い出し、「3年で女性管理職を2倍に」といった具体的な数値目標を設定します。明確なゴールがあると社内の意識が高まり、施策の方向性もはっきりします。
2. トップの意志と進め方を決める
経営層から「女性活躍を重要課題とする」というメッセージを発信し、人事部や関係者でプロジェクトチームを作りましょう。グローバル企業の例では、CEOが先頭に立ってダイバーシティ施策を推進したことが成功のカギとなっています。
3. 研修・メンター制度で人材を育てる
女性社員のリーダーシップ研修やメンター制度を充実させ、キャリアアップをめざす人たちをサポートします。メンター制度では管理職が面談の時間を設け、女性社員がキャリア上の悩みを相談しやすい環境を整えることがポイントです。
4. 採用・昇進プロセスに多様性の視点を取り入れる
採用時には女性候補を増やす工夫を行い、昇進時には必ず女性を検討候補に入れるなど、組織内で女性がステップアップできる仕組みを整備します。公平性を保つため、評価会議にはさまざまな立場の評価者を加えるなどの工夫が有効です。
5. 取り組みを見える化し、継続的にチェックする
女性管理職の比率や離職率の推移などを定期的に追いかけ、公表していくことで意識を高められます。成果が出れば社内で称賛し、遅れていれば原因を分析して施策を見直すなど、粘り強く続けることが大切です。
参考:
マイナビ キャリアリサーチLab「女性管理職を増やすための職場環境と上司のサポート ~2030年の女性管理職比率30%達成に向けて~」
Mirai Works「日本企業の女性管理職比率は? 課題と対策」
30% Club”September 2019 saw women’s representation…”
American Psychological Association(APA)“Female leaders make work better”
まとめ
女性が活躍できる環境を整えることは、企業がこれから先も成長を続けるために欠かせない要素です。そして、その実現を大きく左右するのが、管理職のリーダーシップです。
本記事では、日本の現状や課題を踏まえつつ、女性登用のメリットや推進策をまとめました。女性管理職の割合を高める取り組みは、すぐに成果が出るわけではありませんが、一つひとつの施策を着実に積み重ねることで、職場の文化は少しずつ変わっていきます。
政府が掲げる「指導的地位に女性30%」という目標を達成し、真の男女平等を実現するためにも、今こそ行動に移す必要があります。多様な人材がそれぞれの力を発揮できる職場を作ることは、管理職にとって大きな役割であり、企業の競争力を高めるだけでなく、社会全体の豊かさにもつながるでしょう。