「昇進させてはいけない人はどんな人?」

「昇進対象者は仕事の成果だけで決めるべき?」

このような疑問を持つ管理職も多いでしょう。たしかに、数多くいる従業員の中から、将来のリーダー候補となる人材を選ぶのは決して簡単ではありません。しかし、従業員の中には能力や人間性に問題を抱えており、昇進させるべきではない者もいます。

本記事では、昇進させてはいけない人の特徴や、昇進対象者を選ぶ際の注意点について解説します。適切な人材を昇進させ、優れたリーダーの育成を目指す方は、ぜひ参考にしてください。

昇進対象者を選ぶのに苦労している企業は多い

株式会社日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)が、企業の人事担当者を対象に実施した調査によると、「昇進昇格審査に関して困っていること」について、50.3%が「管理職としてふさわしい人材が少ないこと」と回答しています。この結果から、昇進対象者を選ぶのに苦労している企業は多いことがわかります。昇進した社員が将来リーダーとして活躍する保証はなく、多くの企業が対象者を選ぶのに悩むのも無理はありません。

一方で、従業員の中には能力や人間性の問題から、昇進させてはいけない者もいます。このような問題を抱えている社員を昇進対象者から外すことで、上記のリスクを減らすことができます。

参考:

JMAM 日本能率協会マネジメントセンター「JMAM昇進昇格審査 実態調査2022」

昇進させてはいけない人の特徴

昇進させてはいけない人の主な特徴を紹介します。

責任感がない

昇進させてはいけない人の代表的な特徴として、「責任感がない」ことが挙げられます。会社の一員として働く以上、すべての社員の言動には責任が伴いますが、地位が高くなるほどその責任はより重くなるからです。

転職系メディア「ミライのお仕事」が管理職を対象に実施した調査によると、「困った部下」の特徴として、もっとも多く挙げられた意見が「責任感がない(34.9%)」という意見でした。

▼責任感がない行動の例(同調査より)

  • 正当な理由なく、自分の仕事を他の社員に押し付ける
  • 仕事の期限ギリギリになって「できない」と言い出す
  • 上司から仕事の説明を受けている最中に、断りもなく昼食に出かける
  • 急に連絡が取れなくなり、そのまま休職する

上記のような行動をくり返す人がリーダーになれば、部下にとっては大きなストレスになり、モチベーションが低下する原因にもなり得ます。最悪の場合は、生産性の低下や離職率のアップにつながり、会社としても大きなダメージを受けるかもしれません。

以上のことから、たとえまだ入社して間もない若手社員であっても、責任感を持って仕事に取り組んでいない部下は昇進させるべきではないといえます。

高圧的な態度をとる

周囲に対して高圧的な態度をとる人は、昇進させるべきではありません。このようなタイプがリーダーになると、従業員のモチベーションに悪影響をおよぼす可能性があるからです。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、部下に対してプレッシャーや恐怖心を与える人が上司の場合、離職率は予測値を約90%上回るといいます。また、威圧的な上司を持つ従業員は、自身も周囲に対して同様の言動をとる傾向にあるとされています。

逆に、士気を高めるタイプの上司の場合、離職率は予測値を約68%下回るとのことです。これらの結果から、従業員にとって働きやすい職場をつくるためには、他者に思いやりや敬意を払える者を昇進させるべきだといえる。

なお、周囲に高圧的な言動をくり返すと、その内容によってはパワーハラスメントに該当する可能性があります(下記の定義参照)。もし、後々パワーハラスメントで訴えられれば、会社としても大きなダメージを負いかねないため、このような言動をとる社員は昇進させないのはもちろん、早急に注意・指導することも重要です。

▼パワーハラスメントの定義(厚生労働省より)

  1. 優越的な関係を背景とした言動(例:上司から部下に対する発言)
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの(例:部下を長時間拘束し説教する)
  3. 労働者の就業環境が害されるもの(例:上司の発言により部下が精神的に病んでしまう)

周囲に感謝できない

周囲の社員から何かしら手助けを受けた際に、感謝の気持ちを伝えることができない人は昇進させるべきではありません。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、部下を褒めて感謝の意を表すのが上手なリーダーほど、部下のエンゲージメント(会社への愛着度を指す指標)が高いとされています。以下は、リーダーの「感謝の意を表するスキル」と、部下の「エンゲージメント」の関係を調査した研究結果の一部です。

感謝の意を表すスキルエンゲージメント
下位10%のリーダー27.4パーセンタイル*
上位10%のリーダー69.8パーセンタイル

*パーセンタイル:データを小さい順に並べ、特定の値がデータ全体の何%目にあたるかを指す

職場において、リーダーとしてチームを引っ張るためには、部下の協力が必要不可欠です。上記の結果を見ると、感謝の気持ちを伝えられないリーダーのもとでは、部下は「リーダーのために貢献しよう」という気になりにくいことがわかります。

好き嫌いが激しい

昇進させてはいけない人の特徴として、「好き嫌いが激しい」という点も挙げられます。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、従業員は同等の能力や地位を持つ同僚と比較して、上司が自分をどのように扱っているかを従業員はよく見ているといいます。たとえば、上司の口調や表情、褒め方などに差があれば、彼らはすぐに察知してしまうのです。そして、「上司から好かれている集団」に属していないと感じた従業員は、仕事のパフォーマンスやエンゲージメントが低下する傾向にあるとされています。

もちろん、社内に性格が合わない人が多少いるのは仕方のないことです。しかし、好き嫌いがあまりにも激しい人や、好き嫌いの感情を仕事に持ち込んでしまう人は、昇進させるべきではないでしょう。

完璧を求める

仕事を完璧にこなすことは、一見するとよいことのように思われるかもしれません。しかし、ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、仕事において完璧主義であることは、成功から遠ざかる要因になりうるといいます。

同記事では、完璧主義者を主に以下の3タイプに分類しています。

  • 自己中心的な完璧主義者:自分自身に完璧さを求める。理想が高く、否定的な自己評価をすることが多い。このタイプは、優れた成績を残す傾向にある一方で、不安障害や燃え尽き症候群になりやすい
  • 社会規定的な完璧主義者:周囲が自分に完璧さを求めていると思い込む。周囲が自分に抱いている水準をクリアしないと、受け入れてもらえないと考えている。このタイプは、不必要にプレッシャーを感じることで、うつ病などの精神疾患を患いやすい
  • 他者志向の完璧主義者:他者に完璧さを求める。他者が自分の期待に答えられなかった場合に、過度に厳しく批判する傾向にある。このタイプは、職場での良好な人間関係を築きにくい

上記のうち、とくに昇進させてはいけないのが「他者志向の完璧主義者」です。このタイプが上司になると、部下は大きなストレスを感じ、やがては職場全体のモチベーションや生産性の低下につながりかねません。

ただし、完璧主義者であることは裏を返せば、責任感を持って仕事に取り組んでいる証ともいえます。そのため、失敗に寛容な文化を職場に根付かせることで、彼らも自分自身や周囲に過度な期待をかけず、現実的な目標や基準を設定できるようになるかもしれません。

ノーと言えない

会社は複数のメンバーで協力し合う場である以上、不必要な対立は避けるべきです。しかし、相手に嫌われたり対立したりするのを恐れるあまり、自分の意見をはっきりと主張できない人は、昇進させるべきではないかもしれません。

たとえば、自身のチームが現在取り組んでいる仕事で忙しい中で、上長から新たな業務を課せられたと仮定します。このとき、上長との対立を避けたいがために、リーダーが指示をそのまま受け入れてしまうと、チームメンバーは大きな負担を強いられることになります。

別の例として、とある部下の仕事に対する態度に問題があるように感じたと仮定しましょう。このとき、「部下に嫌われたくない」という理由でそのことを指摘しなければ、部下の態度が改善されることはなく、ほかの社員にも迷惑をかけることになるかもしれません。

このように、自分の意見を伝えられない人がリーダーになると、部下の生産性やモチベーションに悪影響をおよぼす恐れがあります。また、リーダー自身も、自分の意見や不満を表明できず、大きなストレスを抱えるでしょう。

以上のことから、周囲とうまく協調しつつ、ときには対立を恐れず自分の意見を述べられる者が、昇進させる人材としてふさわしいといえます。

一人で仕事を抱え込む

昇進させてはいけない人の特徴として、「一人で仕事を抱え込みがち」という点も挙げられます。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、リーダーが部下に対して積極的に仕事を振ることで、以下のようなメリットが得られるといいます。

  • 部下の成長につながる:一人ひとりの強みや目標に合わせて仕事を割り振る(例:将来のリーダー候補に会議を仕切らせる)ことで、部下を効率的に育成する
  • 時間に余裕が生まれる:自分にしかできない重要なタスク(例:部下の業績評価/新規プロジェクトの発案)に十分な時間を割くことができる

逆に、仕事を一人で抱え込むタイプの人がリーダーになると、自分自身の負担が大きくなるのはもちろん、部下の能力は向上せず、組織としても成長しない恐れがあります。

もちろん、責任を持って自分の業務を全うしようとすること自体は悪いことではありません。しかし、困ったときは素直に周囲に助けを求めることも、リーダーとして非常に重要な資質といえます。

他人に関心がない

自分のことしか頭になく、他人に関心がない人は昇進させるべきではないかもしれません。このようなタイプがリーダーになると、部下に対する教育や指導をおろそかにする可能性が高いからです。

アリゾナ州立大学によると、会社や組織のリーダーは主に以下の3つのタイプに分けられるとされています(他人に興味がないリーダーは、下記のうち「自由放任型」に該当する)。

  • 変革型:部下のパフォーマンスやモチベーションが向上するよう、積極的に働きかけるタイプ
  • 取引型:期待に応える部下には報酬を与え、そうでない部下には罰を与えるタイプ
  • 自由放任型:部下との関わりを最小限にとどめるタイプ

そして、上記のタイプと組織変革能力(OCC)の関連性を調査した研究結果によると、「変革型」と「取引型」はOCCと正の相関関係があるのに対し、「自由放任型」は負の相関関係があることがわかっています。この結果からも、他人に関心がない人は、リーダーとしてふさわしくないことが見て取れます。

ただし、上司が従業員を過度に細かく管理しようとする「マイクロマネジメント」も、彼らに悪影響をおよぼす恐れがあるため注意が必要です。人材派遣業を営むロバート・ハーフ社が実施した調査によると、マイクロマネジャーの下で働いたことがある労働者のうち、68%は「士気が低下した」と、55%は「生産性が低下した」と回答したといいます。

以上のことから、周囲の人にきちんと関心を持ちつつ、適切な距離感を保つことができる社員が、昇進させる人材としてふさわしいといえる

参考:

ミライのお仕事「166人の上司が選んだ「こんな部下は困る!ランキング」発表」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「あなたのリーダーシップは部下を怖がらせていないか」

あかるい職場応援団「ハラスメントの定義」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下に感謝の気持ちを伝える効果を軽視していないか」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「上司による無意識のえこひいきは想定外の影響をもたらす」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「完璧主義が仕事にもたらす負の影響に気づいているか」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「チームの生産的な対立を常に起こさせる方法」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「仕事を任せられないリーダーは、ステップアップできない」

Arizona State University “How Leadership Styles Impact Organizational Change Capacity”

Harvard Business School “How to Stop Micromanaging Your Employees”

昇進対象者を選ぶ際の注意点

社内で昇進対象者を選ぶ際に、上司が注意すべきポイントを解説します。

仕事の成果だけで決めない

昇進対象者を決める際の重要な要素として、「優秀な成績を残しているか」という点が挙げられます。成果を上げている社員はその分仕事の能力が高く、チームをうまくまとめられる可能性が高いからです。

しかし、業務成績だけを基準に昇進させた人が、必ずしも優れたリーダーになるとは限りません。このことは、社会認知神経科学者のマシュー・リーバーマンによる、「優れたリーダー」に必要な要素を調査した研究結果からも明らかです(下記参照)。

要素「優れたリーダー」と評価される割合
成果だけが優れている14%
対人能力だけが優れている12%
成果と対人能力ともに優れている72%

すでにくり返し述べているとおり、組織のリーダーとして成功するためには、チームメンバーとの協調が必要不可欠です。そのため、昇進対象者は仕事の成果だけで決めず、対人能力なども加味することが重要といえます。

昇進の意思を確認する

昇進対象者が決まったら、本人に昇進したい気持ちがあるのか、その意思を確認しましょう。近年ではとくに若手社員の間で、「出世したくない」と考える者が増えているからです。

転職系メディア「転職サイト比較plus」が20代の社会人を対象に実施した調査によると、「将来役職者になりたいと考えますか?」との問いに、77.6%が「いいえ」と回答しています。以下は、出世したくない理由として多く挙げられた意見です。

  • 責任のある仕事をしたくない
  • プライベートを大事にしたい
  • 目立ちたくない
  • 会社内の地位に興味がない

もちろん、出世に興味がある人が、必ずしも優れたリーダーになるとは限りません。しかし、能力が優れていてもやる気がない人よりは、多少能力が劣っていても意欲的な人を昇進させた方が、将来的な成長も見込めるでしょう。

対象者とコミュニケーションをとる

対象者に昇進試験を受験させる場合は、試験の前後に彼らと密にコミュニケーションをとることが重要です。

JMAMが実施した調査によると、昇進昇格試験について、上司の多くは「部下と十分なコミュニケーションがとれている」と思い込んでいるのに対し、部下の多くは「上司とのコミュニケーションが不十分だ」と不満を感じていることがわかっています。以下は、同調査の結果の一部です。

▼Q. (上司に対して)昇進昇格審査の対象者の部下に、審査通知時に何を説明しましたか?/(部下に対して)上司から、審査通知時に何を説明されましたか?

項目「あり」と回答した上司「あり」と回答した部下
合格することへの期待86.3%65.0%
合格するための準備事項83.3%54.3%
合格するための具体的な課題79.6%50.4%

▼Q. (上司に対して)昇進昇格審査の対象者の部下に、結果のフィードバック時に何を説明しましたか?/(部下に対して)上司から、結果のフィードバック時に何を説明されましたか?

項目「あり」と回答した上司「あり」と回答した部下
部下に対する期待83.0%46.9%
合否の理由75.9%44.9%
部下の気持ちや考え75.6%40.6%

上記を見ると、昇進試験の前後に十分なコミュニケーションをとることは、部下の試験合格率を上げることはもちろん、リーダーとしての自覚やモチベーションを高めるためにも効果的だといえます。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「優れたリーダーになることを妨げる脳の3つの性質」

ITmedia ビジネスオンライン「「将来、役職者になりたい」20代の2割 どこまで出世したい?」

JMAM 日本能率協会マネジメントセンター「昇進昇格実態調査 ―上司と部下それぞれからみた実態―」

まとめ

昇進させてはいけない人の特徴や、昇進対象者を選ぶ際の注意点について解説しました。

リーダーとしてチームを引っ張るには、ただ仕事ができるだけでなく、チームメンバーとうまく協調する能力も必要不可欠です。将来のリーダー候補の選定は決して簡単なことではありませんが、昇進させるべきではない人の特徴を知ることで、人材選びに失敗するリスクを軽減できる可能性があります。

本記事で紹介したポイントをふまえ、適切な人材を昇進させ、優れたリーダーの育成を目指してください。