「なぜ部下は新人の面倒をみたがらないのか?」

「新人教育に対する部下のやる気を高めるにはどうすればいい?」

このような疑問を持つ管理職も多いでしょう。入社して間もない新人にとって、社会人としての心構えや仕事のやり方を教えてくれる教育担当は必要不可欠な存在です。しかし、教育担当に任命した部下が、必ずしも新人教育に対して乗り気であるとは限りません。

本記事では、新人の面倒をみたがらない部下の心理や、彼らのやる気を高めるために心がけるべきポイントについて解説します。新人教育を成功させ、優秀な若手社員を育成・定着させたい方は、ぜひ参考にしてください。

新人教育の失敗は会社に大きな損失をもたらす

入社して間もない新人は、仕事に関する知識やスキルがほとんどないケースも珍しくなく、彼らに対する教育が重要なのは言うまでもありません。米国で行われた研究によると、新人が戦力化するまでには、適切な指導を受けても約8ヶ月かかるといわれています。まともな教育を受けられなかった新人の場合、一人前になるまでさらに長い期間が必要になり、その間会社は無駄な人件費を費やすことになりかねません。

入社後に十分な指導を受けられなかった新人は、「会社に大切にされていない」と感じ、愛着が薄れる可能性があります。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、新人が適切な教育が受けられなかった場合、その離職率は入社後45日で約20%、90日で約33%に達するといいます。

以上のことから、新人教育の失敗は会社に大きな損失をもたらす要因になり得るといえます。逆に、新人教育を成功させれば会社の成長に大きく貢献できるため、本来教育担当は非常にやりがいのある職務のはずです。しかし、教育担当に任命された部下の中には、何かしらの理由で新人の面倒をみたがらない者も少なくないでしょう。彼らの新人教育に対するモチベーションを高めるためには、なぜ新人の面倒をみたくないのか、その心理を理解することが大切です。

参考:

Harvard Business Review “Technology Can Save Onboarding from Itself”

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「会社への定着率を上げる新入社員研修とは」

新人の面倒をみたくない部下の心理

新人の面倒をみたがらない部下の心理として、考えられるパターンを4つ紹介します。

新人の面倒をみる余裕がない

新人の教育担当に任命された社員は、自分の通常業務に加えて、部下の面倒をみなければなりません。そのため、自分の仕事をこなすことに精一杯で、新人の指導・教育にまで手が回らない者が多いといわれています。

株式会社日本能率協会マネジメントセンター(以下、JMAM)が実施した「新人・若手社員のOJTに関するアンケート」でも、「OJTにどのような課題があると感じていますか」との問いに、64.7%が「指導側に余裕(時間)がない」と回答しています。

言うまでもなく、新人教育は非常に負担の大きい業務であり、すべての責任を教育担当に押し付けるべきではありません。上司をはじめ周囲の社員も積極的に新人の面倒をみて、教育担当の負担を少しでも減らせるよう努めるべきでしょう。

新人教育のやり方がわからない

先ほど紹介したJMAMの調査によると、OJTの課題について、「指導にバラツキがある(63.6%)」「職場内に育てる文化が根付いていない(39.9%)」など、教育ノウハウに関する意見が多く挙げられています。この結果から、新人教育のノウハウが蓄積されていない職場が多いことがわかります。

自分の通常業務に必要なスキルと、新人の指導・教育に必要なスキルは別物です。とくに、過去に新人の教育担当を務めた経験がない社員の場合、何も教わらなければ適切な指導・教育の方法などわかるはずがないため、面倒をみたがらないのも無理はありません。

このような状況を防ぐために、新人の教育担当になった社員に対しては、上司・先輩社員からコツやノウハウを共有する必要があるといえます。また、社内に適切な教育ノウハウを持つ者がいない場合でも、外部研修を受講させるなどして、教育担当に職務を丸投げしないことが大切です。

新人の面倒をみるメリットがない

新人の面倒をみることで得られるメリットが何もなければ、ただ仕事の負担が増えるだけであり、やる気が出ないのも無理はありません。先ほどのJMAMの調査でも、OJTの課題について、27.0%が「指導者がきちんと評価されない」と回答しています。したがって、新人の教育担当を引き受けてくれる部下に対しては、何かしらの「報酬」を用意することが重要です。

なお、ジョンソン&ウェールズ大学の研究によると、報酬は「外的報酬」と「内的報酬」の2種類に分けられ、従業員のモチベーションを高く保つには、どちらもバランスよく与えると効果的だといいます。

  • 外的報酬:行動の結果として与えられる報酬。短期的な効果が得やすい(例:手当、ボーナスなど)
  • 内的報酬:行動そのものから得られる報酬。効果が長期間持続しやすい(例:仕事のやりがい、成長している実感など)

つまり、「教育担当の手当を支給する」といった外的報酬だけでなく、「こまめに感謝や労いの言葉をかけ、会社への貢献度を実感させる」などの内的報酬も与えることが大切なのです。

新人との相性が悪い

新人も教育担当者も人である以上、性格や考え方の相性が合わないケースも多々あるでしょう。とくに両者は一緒に過ごす時間が長いため、関係性が悪ければ面倒をみたくないのも無理はありません。

なお、新人と教育担当の関係性が悪いまま放置すると、新人が短期離職する原因にもなり得るため、早急に対処することが重要です。株式会社ビズヒッツが、「新卒1年未満で転職した経験がある人」を対象に実施した調査でも、約31.2%が「人間関係が悪い」を転職理由として挙げています。

新人と教育担当の関係性に異変を感じた場合は、中立な立場で両者の言い分を聞いた上で、関係を修復できるよう仲裁しましょう。もし、関係修復がどうしても難しいと判断した場合は、教育担当者を変更するなどの対処が必要かもしれません。

参考:

PR TIMES「新人・若手社員の「OJT」に関する調査結果」

Johnson & Wales University “Why is Employee Motivation Important in the Workplace?”

PR TIMES「【新卒1年未満の転職理由ランキング】381人アンケート調査」

新人の面倒をみたがらない部下への適切な対処法

新人の面倒をみたがらない部下のやる気を高めるために、上司が心がけるべきポイントについて解説します。

1人に任せきりにしない

くり返し述べているとおり、新人への指導・教育は非常に負荷の重い仕事であり、教育担当者1人にすべてを任せきりにするべきではありません。

ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、仕事ができ対人能力も高い優秀な社員であっても、教育担当の業務による負荷やストレスをうまくコントロールできず、バーンアウト(燃え尽き症候群)を発症するケースがよくあるといいます。バーンアウトには慢性的な疲労や集中力の低下、自信の喪失などのさまざまな症状が見られ、そのまま放置するとより重大な疾患につながるリスクもあるとされています。

そのため、新人教育の責務を教育担当が1人だけで背負いこまないよう、上司が積極的に働きかけて負荷を軽減してあげることが大切です。

▼【具体例】上司ができる教育担当へのフォロー

  • 日頃の言動を観察し、バーンアウトの兆候が見られないかチェックする
  • こまめに面談を実施し、悩み相談や進捗確認、ノウハウの共有などを行う
  • 周囲の社員にも新人への指導・教育を行うように促す

感謝の言葉をかける

新人の教育担当を引き受けてくれた部下には、感謝の言葉をこまめにかけることが重要です。ハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、部下に感謝や賞賛の言葉をかけるのが上手なリーダーほど、部下のエンゲージメント(会社への思い入れや愛着)が高いとされています(下記研究結果参照)。

▼感謝・賞賛とエンゲージメントの関係

感謝・賞賛する能力の評価エンゲージメントレベル
下位10%のリーダー27.4パーセンタイル*
上司10%のリーダー69.8パーセンタイル

*パーセンタイル:データを小さい順に並べ、特定の値がデータ全体の何%目にあたるかを指す

上記の結果から、上司による感謝の言葉で教育担当のモチベーションはアップし、最終的には新人の成長スピードの促進にもつながると期待できます。

ただし、感謝の言葉は適当に「ありがとう」と伝えるだけでは、効果が薄い可能性があります。同記事によると、部下に感謝の言葉を伝える際は、以下のポイントを意識すると効果的といいます。

  • 具体的な行動や成果について感謝を伝える(例:「新人が遅刻した際に、キツい言葉を使わず、でもわかりやすく注意できていてよかったと思います」)
  • 相手によって感謝の伝え方を変える(例:恥ずかしがりな社員には、大人数の前ではなく個別に呼び出して伝える)
  • 賞賛すべき行動が確認できたら、すぐに感謝を伝える
  • 頻繁に感謝を伝える(相手も自分から感謝されることに慣れるため、気楽に感謝しやすくなる)

研修や外部サービスを活用する

新人の教育に割く時間がどうしても足りない場合は、社内外の研修を受講させるのも一つの手です。たとえば、業界や職種に関わらず、社会人として働く上で欠かせないビジネスマナーを、教育担当が新人に一つひとつ教えるのは大変です。しかし、ビジネスマナー研修を受講させれば、教育担当に負担をかけることなく、必要な知識を短期間で体系的に習得できます。

また、近年ではAI技術が目覚ましく進化し続けており、新人教育の時短に役立つツールやサービスも数多く存在します。その一例として、リコーリース株式会社ではコールセンタースタッフの教育にかかる工数を削減するため、スタッフの質問に常時回答できるAIチャットボットシステムを導入しています。これにより、教育担当スタッフ1人あたりの指導時間が月3時間削減されただけでなく、指導を受けたスタッフの後処理時間(お客様対応後の後処理に要する時間)も1人あたり月5時間削減されたといいます。新人教育にかかる手間を最大限に効率化したい場合は、このような社外サービスを利用するのも有効でしょう。

ジョブクラフティングを促す

厚生労働省では、仕事に対するモチベーションを高める方法として、「ジョブクラフティング」の実施を推奨しています。ジョブクラフティングとは、「仕事のやりがいや満足度を高めるために、自分の働き方に以下の工夫を加える手法」を指す言葉です。

工夫概要具体例
作業クラフティング仕事の量や内容を自ら調整・変化させる従来の対面での指導に加え、オンラインでの自習コンテンツやセミナーを取り入れることで、学びの幅を広げる
人間関係クラフティング職場での人間関係を意図的に構築・調整する他部署の新人との交流の場を設け、お互いに助け合いながら成長できる環境を整える
認知クラフティング自分の仕事の意義や価値を再評価し、ポジティブな側面に焦点を当てる新人教育はただ新人に仕事を教えるのではなく、「将来的な会社の利益に直結する重要な仕事だ」と捉え直す

過去の研究により、ジョブクラフティングには従業員のエンゲージメントや自己効力感を高めたり、ストレスを軽減させたりする効果があるとされています。したがって、新人への指導・教育に乗り気でない部下にジョブクラフティングを促せば、やがて教育担当の業務に前向きに取り組むようになると期待できます。

参考:

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「メンターのバーンアウトを防ぐ方法」

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー「部下に感謝の気持ちを伝える効果を軽視していないか」

Ricoh「新人育成と処理効率アップに貢献!「RICOH Chatbot Service」がコールセンターのナレッジ管理を一新」

厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」

まとめ

新人の面倒をみたがらない部下の心理や、彼らのやる気を高めるために心がけるべきポイントについて解説しました。

教育担当に任命された部下が、必ずしも新人の面倒をみることに乗り気であるとは限りません。しかし、上司が適切に対処することで、彼らが新人教育に対してやりがいを感じるようになる可能性も十分に考えられます。

本記事で紹介したポイントをふまえて、新人教育を成功させ、優秀な若手社員の育成・定着を目指してください。