退職者が相次ぐものの、退職理由が不明で改善方法が分からないと悩んでいる管理職の方もいるでしょう。退職者が相次ぐ理由として、仕事への満足度が低いことや、同僚の転職に影響を受けていることが考えられます。

本記事では、退職者が相次ぐ原因と、その結果どうなるのかについて解説します。さらに、離職率を下げる方法や退職理由を知る方法についても紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。

退職者が相次ぐ原因

退職者が相次ぐ原因について、アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナルが公開するワシントン大学教授であるテレンス・R・ミッチェル氏らによる論文を参考に解説します。

仕事への満足度が低い

退職が相次ぐ理由の一つに、仕事への満足度の低さがあります。仕事への満足度が低いと、社員のモチベーションが低下し、組織への帰属意識も薄れやすくなります。結果として、転職活動を始めたり、退職を考える可能性が高まるのです。

仕事への満足度の低い社員の転職活動や退職は、周囲の社員に自分も転職すべきなのではないかといった疑問を抱かせ、結果として退職の連鎖を引き起こす可能性があるとされています。

このように、仕事への満足度の低さは、個人の退職行動だけでなく、組織全体の退職率にも影響を与える重要な要因と言えるでしょう。

同僚の転職活動が伝染する

先述したとおり、同僚の転職活動は、周囲の社員に自分も転職すべきなのではないかという思いを抱かせ、離職の伝染を加速させます。これは、社会的比較理論という心理学的メカニズムに基づいています。

人は自分と似た立場の人と比較することで、自分の状況を判断する傾向があります。職場では、同僚が比較対象となることが多く、同僚の行動は自身の判断に大きな影響を与えます。

たとえば、同僚が転職活動について話しているのを聞くと、他の社員も転職を現実的な選択肢として捉えるようになります。特に、現状に不満を抱えている社員は、同僚の転職活動をきっかけに、自分も行動を起こすべきと思い、転職活動を開始する可能性が高まります。

このように、同僚の転職活動は、他の社員の転職意欲を刺激し、離職の伝染を引き起こす強力な要因となります。結果として、一人の離職が、同僚や部署全体の離職へと波及していく可能性があるのです。

参考:

Felps, W., Mitchell, T. R., Hekman, D. R., Lee, T. W., Holtom, B. C., & Harman, W. S. (2009). Turnover contagion: How coworkers’ job embeddedness and job search behaviors influence quitting. Academy of Management Journal.https://journals.aom.org/doi/10.5465/amj.2009.41331075

退職が相次ぐ組織の末路

退職が相次ぐ組織の末路について、同論文を参考に解説します。退職者が相次ぐ組織は、競争力を失い、業績が低下する可能性が高いと言えるでしょう。人材の維持は組織の競争優位性を左右する重要な要因の一つであり、高い離職率は組織のパフォーマンスに負の影響を与える大きな要因です。

離職が続くと、組織は知識や経験、組織特有のノウハウを失い、生産性やサービスの質が低下する傾向があります。これは顧客満足度の低下を招き、業績悪化につながる可能性が高いです。また、退職者の補充には採用・教育コストが発生し、組織の経営基盤に大きな影響を与えます。

残された社員の負担が増加し、モチベーションが低下、さらなる離職の連鎖に陥ることも懸念されます。このような悪循環は組織風土の悪化を招き、優秀な人材の確保を困難にします。結果として、市場における競争力を失い、組織の衰退につながる恐れがあります。

離職率を下げる方法

離職率を下げる方法について、ハーバードビジネスレビューが公開するカリフォルニア大学サンフランシスコ校の臨床助教授であるキャノン・トーマス氏らによる記事を参考に解説します。

信頼関係を築く

上司と部下の信頼関係が築けている場合、離職率が低くなるとされています。双方向コミュニケーションを通じて、お互いを深く理解し合うことで、職場に安心感と信頼感が生まれます。

上司と部下が信頼関係を築くためには、部下に寄り添う姿勢や具体的なフィードバックの実施、部下の意見を尊重することなどが大切です。たとえば、プレゼン資料について、指摘する際には「プレゼン資料がイマイチだった」など、抽象的に伝えるのではなく、以下のように具体的に伝えてみましょう。

具体的なフィードバックの例
上司:○○さん、先日のプレゼン資料、構成は良かったのですが、市場データの引用元が不明確だった点が気になりました。次に作るときは、引用元を明記するように心がけてみましょうか。

また、部下に寄り添ったコミュニケーションの方法としては、以下のように部下に共感し、悩みを打ち明けやすい環境を整えるとよいでしょう。

部下に寄り添った例
上司:○○さん、最近Web広告の運用で苦労しているみたいですね。新しい手法を試すのは大変だと思いますが、何か困っていることがあれば、いつでも相談に乗りますよ。一緒に解決策を考えていきましょうね。

日頃から上記のようなコミュニケーションを通じて信頼関係を築くことで、部下のモチベーション向上やパフォーマンス改善につながり、結果的に離職率の低下が期待できます。

共通の目標を掲げる

組織全体や部署などで共通の目標を掲げ、目標を共有することで、組織や部署の一体感が高まります。結果として、社員のモチベーション向上や仕事へのコミットメント強化につながり、離職率の低下が期待できます。

共通の目標設定は、個人のパフォーマンス向上だけでなく、チーム全体の成果にも良い影響を与えます。目標達成に向け、社員が互いに協力し合うことで、一体感が生まれ、組織への帰属意識も高まります。

共通の目標を掲げることは、社員の定着率向上につながる重要な要素となり、離職率低減に大きく貢献すると言えるでしょう。

部下の意見に耳を傾ける

部下の意見に耳を傾けることは、部下の仕事へのやりがいや働きやすい職場環境を実現できるため、離職率低下に効果的です。上司が部下の意見に耳を傾け、部下の意見を職場環境に反映されていると感じれば、会社への愛着や仕事へのモチベーションが高まります。

たとえば、定期的な1on1ミーティングや匿名アンケートで意見を集め、業務プロセスやコミュニケーション方法の改善につなげれば、より働きやすい環境が実現します。上司が部下の意見に耳を傾けることで、部下の仕事への満足度が向上し、結果として離職率の低下につながります。

小さな成功も称賛する

小さな成功を称賛することは、部下のモチベーション向上やエンゲージメント強化につながり、離職率低下が期待できます。小さな成果であっても、上司は、部下を認めて褒めることで、部下は自分の仕事が評価されていると感じ、更なる努力への意欲を高めます。

たとえば、目標達成の過程で小さな成果を達成した際などに、個別、または朝礼時に社員の前で称賛することで、部下は自分の成長を実感し、会社への帰属意識を高めるでしょう。

小さな成功を称賛されることで、部下のモチベーション維持とエンゲージメント向上につながり、離職率低下が期待できます。

業務と組織の目標を結びつける

社員が自分の仕事が組織全体の目標達成にどのように貢献しているかを理解することは、モチベーション向上につながります。

個々の業務と組織全体の目標を結びつけ、それぞれの役割の重要性を明確にすることで、社員は自身の仕事に意義を見出し、責任感とやりがいを持って仕事に取り組むことができます。

これは、社員のエンゲージメントを高め、離職防止に大きく貢献します。

参考:

Thomas, C., & Delizonna, L. (2022, April 1). How teams are retaining employees right now. Harvard Business Review. Retrieved.https://hbr.org/2022/04/how-teams-are-retaining-employees-right-now

退職理由を知る方法

具体的な退職理由を話す人は少なく、企業側が何を改善すれば良いか理解できていないこともあるでしょう。退職理由を知ることは、企業が人材を確保するために必要な情報であり、離職率を下げるために役立ちます。

退職理由を知る方法について、ハーバードビジネスレビューに掲載されているユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 准教授であるアンソニー C. クロッツ氏らによる記事を参考に解説します。

辞め方を調査する

社員の辞め方には、その人が会社や上司をどう見ていたかが反映される場合が多いです。辞め方には、円満で感謝の意を示すものから、無断で突然去るものまで、様々なタイプが存在します。

それぞれの辞め方には、会社への満足度や上司との関係性、仕事へのモチベーション、個人的な事情など、様々な要因が複雑に絡み合っています。たとえば、会社に不満があり、上司との関係も悪化している場合、ケンカ別れのような形での退職につながる可能性があります。

一方、会社に満足しており、上司との関係も良好な場合は、感謝の意を示し、円満に退職するケースが多いでしょう。このように、辞め方を通して、社員の真の退職理由や会社に対する思いを汲み取ることができ、組織改善のヒントになります。

近しかった社員の話を聞く

退職者本人からは真の退職理由を聞き出せない場合でも、同僚は会社改善のために情報提供してくれる可能性があります。辞めた社員と親しかった同僚との面談は、離職理由を知るために役立ち、上司へ不安や悩みを打ち明けることで、残された社員のストレス緩和にもつながります。

ただし、会社が個人的に踏み込んでいると捉えられる可能性もあるため、強制ではなく、情報収集の目的を明確に伝えることが重要です。退職した社員や残された社員のプライバシーに配慮する必要があるため、面談は慎重に行いましょう。

退職後の行動からヒントを得る

退職者のその後の進路を知ることで、離職率低下においての組織の課題を特定できます。たとえば、進学する人が多ければ教育支援制度の必要性が高く、育児のために退職する人が多ければワークライフバランスの見直しが求められるでしょう。

また、競合他社に転職する傾向があれば、その企業の待遇面などを分析することで、自社の改善点を洗い出せます。ただし、退職後の行動はあくまでヒントの一つであり、それだけで全ての理由を説明できるわけではありません。

また、退職者のプライバシーへの配慮も必要であるため、あくまで参考情報として、他の情報と合わせて総合的に判断することが重要です。

参考:

Klotz, A. C., & Bolino, M. C. (2019, July 31). Do you really know why employees leave your company? Harvard Business Review.https://dhbr.diamond.jp/articles/-/6115?page=2

まとめ

退職者が相次ぐ原因は、仕事への満足度の低さや同僚の転職の影響など様々です。離職が続くと、組織はノウハウを失い、生産性低下や業績悪化につながる恐れがあります。

離職率を下げるには、上司と部下の信頼関係の構築や共通目標の設定、部下の意見に耳を傾けることなどが有効です。

また、退職理由を把握することが難しいケースも少なくないため、退職者の辞め方や親しい同僚からの情報収集、退職後の行動に注目することで退職理由を知ることができます。

これらの分析を通して、組織の課題を特定し、改善策を講じることで、退職者の増加を防ぎ、組織の成長へとつなげることが期待できます。