「良い人材が来ない」「内定を出しても逃げられる」「入社してもすぐ辞める」。
これらの「採用の失敗」は、人事部だけの責任ではありません。多くの場合、現場の管理職が持つ市場観のズレや、面接でのコミュニケーション不全がボトルネックになっています。
経営計画を達成するためには、採用を「運任せ」にするのではなく、マーケティングや営業活動と同様に、プロセスごとの歩留まりを改善する取り組みが不可欠です。
本記事では、企画から入社後の定着に至るまで、各フェーズで発生しやすい「失敗」の原因を解説します。
企業でよくある採用失敗を採用フェーズ別に解説

採用活動は、候補者を認知し、興味を持ってもらい、見極め、口説き、定着させるという一連のファネルです。
どこか一箇所でも穴が開いていれば、どれだけ母集団を集めても成果はゼロになります。しかし、多くの企業では「なんとなく」の経験則で運用され、各フェーズで致命的な機会損失を生んでいます。
特に近年は、売り手市場の加速により、企業側が「選ぶ立場」から「選ばれる立場」へとパワーバランスが逆転しました。
この変化に適応できていない管理職が、無自覚に候補者を遠ざけているケースが散見されます。ここでは、採用フローを5つのフェーズに分解し、それぞれの段階で起こりがちな失敗事例とその対策を解説します。
企画の段階
採用計画の立案段階での失敗は、その後のすべての採用プロセスを無駄にするリスクがあります。
最も多い失敗は、自社の魅力や市場相場を客観視できていない「高望み」と「ターゲットの不明確さ」です。
多くの管理職は「即戦力が欲しい」と口にしますが、その「即戦力」が市場にどれだけ存在するのか、そして自社の提示条件で見向きもしてくれるのか、という視点が欠けています。
また、曖昧な要件定義は、エージェントや採用担当者とのミスコミュニケーションを生み、結果として的外れな候補者ばかりが推薦される、あるいは誰も推薦されないという事態を招きます。
成功する採用企画は、現場のリアルなニーズと、労働市場のドライな現実をすり合わせることから始まります。
「いない人」を探すのではなく、「採用可能な層」の中でいかにポテンシャルを見出すかへの転換が求められています。
転職エージェントから人材を紹介されない
「要件が高すぎる」、または「年収が相場より低すぎる」ために、エージェント側で「紹介できる人がいない(案件化不可)」と判断され、リジェクトされるケースです。
これは、現場が求めるスキルセットと、提示する給与レンジに著しい乖離がある場合に発生します。
リクルートワークス研究所の調査によると、中途採用の実績がある企業でも、計画通りに人を確保できている企業は半数以下です。
特にエンジニアや専門職の求人倍率は極めて高く、エージェントは「成約可能性の高い(条件が見合っている)案件」を優先的に扱います。
必須要件(Must)にあれもこれもと盛り込みすぎた結果、市場に存在しない人材を定義してしまい、誰からも紹介されないという状況に陥ります。
参考:リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2024年度実績)」
母集団形成(集客)フェーズの失敗
媒体に掲載しても、スカウトを送っても反応がない状態です。これは「誰に」「何を」伝えるかが定まっていない、あるいは求職者が知りたい情報が欠落していることが主因です。
Indeedの採用ガイド「How to Write a Job Description」によれば、効果的な職務記述書(Job Description)を作成するためには、単なる要件の羅列ではなく、明確な職種名、具体的な責任範囲、そして必須要件と歓迎要件の区別が必要です。
特に注意すべきは「要件の詰め込みすぎ」です。Indeedの調査では、候補者の63%が「求人票に書かれているツールやスキルを知らない」という理由だけで応募を断念したと回答しています。
また、日本の求人票では「給与」や「具体的な福利厚生」の記載が曖昧なケースが目立ちますが、情報の不透明な企業はリスクが高いとみなされ、検討の土俵に上がりません。 「Must(必須)」と「Nice to have(歓迎)」を明確に分け、給与レンジや企業文化などの透明性を高めることが、適切な母集団を形成する第一歩です。
参考:
Indeed “How to Write a Job Description”
スカウトの返信率が極端に低い
ダイレクトリクルーティングにおいて、スカウトメールを送っても無視される(開封すらされない)ケースです。主要な原因は「テンプレートの一斉送信」に見える文面です。ダイレクトリクルーティング支援のVollect社などのデータによると、一般的なスカウトの平均返信率は5%程度と言われています。
候補者は、自分の経歴のどこに興味を持ったのかが書かれていないメールを「スパム」と認識します。「あなたのキャリアなら活躍できる」という定型句ではなく、「〇〇プロジェクトの経験が、当社の△△という課題解決に必要です」といった個別具体的なメッセージがなければ、優秀層の心は動きません。管理職自らが候補者のレジュメを読み込み、熱量を込めるプロセスを省略してはならないのです。
参考:HRpedia「スカウト平均返信率は何パーセント?返信率を上げるポイント」
選考・面接フェーズの失敗
書類選考を通過し、いざ面接となっても、そこでの離脱が相次ぐのがこのフェーズの特徴です。
ここでの失敗の多くは、面接を「企業が候補者をジャッジする場」と捉え、「候補者に選ばれる場」でもあるという意識が欠如していることに起因します。
面接官のトレーニング不足による不適切な質問、圧迫的な態度、そして連絡の遅滞は、候補者体験(Candidate Experience)を著しく損ないます。
海外の研究では、面接プロセスの公正さが、入社意欲だけでなく、その後の企業ブランドや顧客としての行動にも影響することが示されています。特に管理職層が出てくる面接での印象は、そのまま「入社後の働きやすさ」の予測に使われるため、極めて重要です。
面接設定前の離脱
書類通過の連絡をしても返信がない、または電話に出ないという状態です。これは、他社と比較して「スピード負け」している可能性が高いです。LinkedInの調査によれば、候補者が企業からの連絡を無視する「ゴースティング」は、採用プロセスのスピードが遅い場合や、コミュニケーションに空白期間がある場合に急増します。
売り手市場においては、優秀な候補者は同時に複数社の選考を進めています。「忙しいから週末にまとめて対応しよう」という管理職のタイムラグの間に、競合他社は面接日程を確定させ、心理的な優先順位を奪っていきます。スピードは最大の差別化要因であり、24時間以内のレスポンスが最低ラインと考えるべきです。
参考:LinkedIn Talent Blog “Candidate Ghosting: What It Is and How to Prevent It”
選考途中の辞退が多発する
1次面接や2次面接の後、「他社が決まった」「再考したい」と辞退されるケースです。これは「意向上げ(アトラクト)」の失敗を意味します。ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)のピーター・カッペリ教授は、現代の採用プロセスの多くが「候補者を顧客として扱う」視点を欠いており、そのことが優秀な人材の離脱を招いていると指摘しています。
面接中に候補者のキャリア観を聞き出せず、自社でそれがどう実現できるかを提示できない「準備不足の面接官」は、候補者に企業の質の低さを露呈してしまいます。候補者は面接官の態度を通じて、入社後の上司や文化を評価しています。選考プロセスが単なる「見極め」に終始し、候補者を魅了する対話の場として機能していないことが、この段階での致命的な機会損失を生んでいます。
参考:Harvard Business Review”Your Approach to Hiring Is All Wrong”
現場による「全落ち」判定
人事が選定した候補者を、現場の管理職がことごとく不合格にする事態は、採用基準の言語化不足と「非構造化面接」の弊害です。面接官が自身の直感や「社風への適合」といった曖昧な感覚で判断を下すと、無意識のバイアス(自分と似たタイプを好む等)が働き、本来の適任者を排除してしまいます。
Googleの研究成果を公開している「re:Work」によれば、質問項目や評価基準を事前に定めない非構造化面接は、将来のパフォーマンスを予測する上で信頼性が低いことが実証されています。
「なんとなく」の評価を繰り返すことは、採用コストの増大と多大な機会損失を招きます。これを防ぐには、求める属性を明確にし、全候補者に一貫した質問を行う「構造化面接」の導入と評価基準(ルーブリック)の共有が不可欠です。
参考:
Google re:Work “Guides: Use structured interviewing”
オファー・内定フェーズの失敗
最終面接を通過し、内定を出そうとする段階での失敗です。ここは「条件交渉」と「決断のサポート」が鍵となりますが、ここでのコミュニケーションミスが最後の最後で破談を招きます。
候補者は人生の大きな決断を迫られており、非常に敏感になっています。特に、年収条件の提示タイミングや、他社の選考状況に対する配慮不足が目立ちます。また、現職からの引き留め(カウンターオファー)を甘く見ていると、承諾直前でひっくり返されることもあります。この段階では、評価者としての顔を捨て、候補者のキャリアパートナーとして徹底的に寄り添う姿勢が求められます。
内定辞退
内定を出したが、「他社に行く」「現職に残る」等の理由で断られるケースです。エン・ジャパンの調査によると、内定辞退の理由として「条件面」以外に、「社風が合わないと感じた」「面接官の対応が悪かった」など、選考プロセス全体を通じた違和感が最終決定に影響することが分かっています。
また、現職の会社も優秀な社員を手放したくないため、昇給や昇格を提示して引き留めます。これに対抗するには、候補者が「なぜ転職活動を始めたのか」という原点(転職動機)に立ち返り、自社ならその課題を解決できると論理的かつ感情的に訴えかける必要があります。
希望年収との乖離による決裂
最終段階で条件が折り合わず、オファーが出せない、または断られる失敗です。これは、選考の初期段階で給与条件のすり合わせを行っていないことが原因です。
米国のGlassdoorの調査データが示すように、給与の透明性(Pay Transparency)は候補者の信頼を得るために重要です。
日本では「お金の話は最後」という文化がありますが、最終面接まで進んでから「希望年収より100万円低い提示」を行えば、候補者は「時間を無駄にされた」と憤ります。
市場価値に見合ったオファーが出せる予算構造か、あるいは金銭以外の報酬(柔軟な働き方やキャリア機会)でカバーできるかの見極めと合意形成は、選考中盤までに済ませておくべきです。
参考:Glassdoor “Salary Transparency Survey”
入社・受入フェーズの失敗
内定承諾はゴールではありません。入社し、戦力として定着して初めて採用成功と言えます。しかし、内定承諾から入社までの「空白期間」や、入社直後の「リアリティショック」により、早期に人材を失うケースが増えています。
これは、採用担当者から現場への引き継ぎがうまくいっていない、あるいは採用時に「良いこと」しか伝えていないことによるミスマッチが原因です。オンボーディング(受け入れプロセス)の失敗は、採用コストだけでなく、教育コストの損失も招き、既存社員のモチベーションも低下させます。
入社直前の辞退
内定承諾はゴールではなく、信頼関係を築くスタートです。しかし、承諾を得た瞬間にフォローを人事任せにする管理職が多いため、入社直前の辞退や早期離職という最悪の失敗が繰り返されています。
エン・ジャパンの調査『辞退の心理』によれば、承諾後であっても候補者の心は揺れ動いており、「他社への未練」や「現職からの引き留め」によって決断が覆るケースは珍しくありません。候補者は入社が近づくにつれ、「本当にこの選択で良かったのか」という強い不安(内定ブルー)に襲われます。
調査データによれば、22%の候補者は「ネット上の良くない評判」を見て決断を翻しています。管理職がフォローを怠り、候補者とのコミュニケーションを断絶させてしまうと、こうした外部情報に流されやすくなります。入社までの空白期間を「組織への同化プロセス」と位置づけ、定期的な面談や実務イメージの共有を通じて不安を解消していく姿勢が求められます。このフェーズでのボタンの掛け違いは、これまでの全ての努力を無駄にする深刻な損失です。
参考:エン・ジャパン「人事のミカタ:辞退の心理 [増補改訂版]」
企業の採用失敗例を防ぐには?

ここまで各フェーズにおける失敗事例を見てきましたが、これらを防ぐために最も重要なことは、採用を「個人の感覚」から「科学的なプロセス」へと昇華させることです。
多くの企業で採用が失敗する根本原因は、採用基準やプロセスが面接官ごとの「属人性」に依存している点にあります。
米国労働省(U.S. Department of Labor)のデータを引用したForbesの記事によると、採用ミスマッチによる損失コストは、その社員の初年度年収の30%に達すると言われています。年収600万円の人材であれば、採用に失敗するだけで約180万円が消える計算です。さらにここには、周囲のモチベーション低下や、再採用にかかる時間的コストは含まれていません。
この損失を防ぐには、精神論ではなく、プロセスごとの「構造化」と「可視化」が必要です。
参考:Forbes “The True Cost Of A Bad Hire”
構造化面接:採用基準の「標準化」
前述の「現場による全落ち」や「入社後のミスマッチ」を防ぐ最も有効な手段が「構造化面接(Structured Interviewing)」の導入です。
これは、事前に「求めるコンピテンシー(行動特性)」を定義し、すべての候補者に対して「同じ質問」を「同じ順序」で行い、あらかじめ決めた基準でスコアリングする手法です。
Googleの採用研究チーム(re:Work)は、構造化面接が非構造化面接(フリートーク形式)と比較して、将来のパフォーマンス予測精度がはるかに高いことを実証しています。
管理職は「いい人がいたら採る」というスタンスを捨て、「どのような課題を解決するために、どのような過去の行動事実を持つ人材が必要か」を言語化する必要があります。これにより、面接官のバイアス(自分と似た人を好む傾向など)を排除し、再現性のある採用が可能になります。
参考:Google re:Work「ガイド: 構造化面接を実施する」
候補者体験:選考スピードの「高速化」
「連絡が来ない」「面接設定が遅い」ことによる離脱(ゴースティング)を防ぐには、候補者体験(Candidate Experience)を最優先したスピード対応が不可欠です。
売り手市場においては、優秀な人材ほど「待ってはくれません」。Indeedのデータによると、コミュニケーション不足はゴースティングを引き起こす最大の要因の一つであり、63%の雇用主がコミュニケーション改善によりこれを防げると回答しています。
具体的には「24時間以内の一次返信」「面接終了後即日のフィードバック」をKPI(重要業績評価指標)として設定すべきです。
「忙しいから週末にまとめて」という管理職のタイムラグは、競合他社に人材を奪われる最大の要因です。候補者を「ジャッジする対象」ではなく「顧客」として扱い、迅速かつ丁寧なコミュニケーションを行う仕組み作りが求められます。
参考:Indeed Lead “Who You Gonna Call? How to Stop Ghosting in its Tracks”
採用管理システム(ATS):プロセスの「可視化」
「誰がボールを持っているかわからない」という状況を打破するために導入すべきなのが、採用管理システム(ATS:Applicant Tracking System)です。
Excelやメールでの管理には限界があります。Jobviteの『Recruiter Nation Report 2024』によると、採用における最大の課題として「人材獲得競争の激化」や「候補者不足」が挙げられており、AIやATSを活用してマッチング精度や業務効率を高めることがトレンドとなっています。
ATSを導入することで、「どの経路からの応募が有効か」「どの面接官のところで選考が停滞しているか」といったボトルネックがリアルタイムで可視化されます。
事務的な連絡や日程調整をシステムで自動化し、浮いた時間を「候補者の意向上げ(アトラクト)」や「面接準備」という、人間にしかできないコア業務に充てることが、採用成功の鍵となります。
参考:Jobvite “Talent Acquisition Trends from the Employ Recruiter Nation Report 2024”
失敗例から学び、採用活動を成功させよう
本記事では、採用フローの各段階で発生する「失敗」のメカニズムと、その対策について解説してきました。
「人が来ない」「辞退される」「すぐ辞める」といった現象の裏側には、必ず構造的な原因が存在します。それは市場価格を見誤った要件定義かもしれませんし、候補者を尊重しない面接態度、あるいは入社前のコミュニケーション不足かもしれません。
重要なのは、これらの失敗を人事部門だけの責任にするのではなく、現場の管理職が「当事者」として採用プロセスに関与することです。
採用は、自社の未来を作るための投資活動です。失敗から目を背けず、データを基にプロセスを改善し続ける企業だけが、優秀な人材に選ばれ、勝ち残ることができます。
まずは自社の直近の「不採用」や「辞退」のデータを振り返り、どのフェーズにボトルネックがあるのかを分析することから始めてみてはいかがでしょうか。

