「新入社員がなかなかうまく育たない…」
「新入社員の教育計画の立て方がわからない…」

このような悩みを持つ管理職も多いでしょう。限られたリソースの中で、新入社員を効果的に育成するためには教育計画が必要不可欠ですが、適当に計画を立てるだけではあまり意味がありません。

本記事では、新入社員の教育計画の作成方法や押さえるべきポイントについて、記入例付きで解説します。効果的な教育計画を作成することで、新入社員を優秀な人材へと育て上げたい方は、ぜひ参考にしてください。

新入社員の教育計画を作成するメリット

厚生労働省が公表する情報をもとに、新入社員の教育計画を作成するメリットについて解説します。

無駄なく効率的に育成できる

新入社員の教育計画を作成する大きなメリットとして、「無駄なく効率的に育成できる」点が挙げられます。新入社員の育成目標(どのような人材に育てたいか)を定め、目標を最短かつ最低限のリソースで達成できるよう、事前に戦略を立てられるからです。

マラソンに例えると、ゴール地点(=目標)を決め、ゴールまでの最短コース(=教育計画)を設定することで、ランナー(=新入社員)は最小限の労力で完走できます。逆に、教育計画を作成しないのは、ゴールがわからないまま延々と走り続けるようなものです。

新入社員の育成にかけられる時間や予算、人員には限りがあります。これらのリソースを無駄にしないためにも、教育計画の作成は必要不可欠だといえます。

育成の進捗状況を管理しやすい

新入社員の教育計画を作成しておくと、「育成の進捗状況を管理しやすい」点も大きなメリットです。例として、営業職の新入社員について、以下のような教育計画を作成したと仮定します。

月5件以上の新規顧客を獲得するために、1日50件以上架電してアポを申し込む

もし、「新規顧客を月5件以上獲得」という目標が達成できていれば、この計画にはとくに問題がないといえます。逆に、目標が達成できていなければ、「1日50件以上架電する」という戦略に問題があると考えられます。この場合は、以下のように目標や戦略を変更するなどして、軌道修正が可能です。

以上のことから、教育計画があれば新入社員の現状や課題を把握しやすく、仮に計画通りにいかない場合でも軌道修正がしやすいといえます。

本人のモチベーションアップにつながる

新入社員に教育計画を共有すれば、「新人自身のモチベーションをアップさせる」効果も期待できます。計画の進捗状況を把握することで、自分の成長を実感できるからです。

人事組織コンサルティングを手がける株式会社シェイクが、新入社員を対象に実施した調査によると、「どのようなときにモチベーションが高まるか」との問いに対し、主に以下のような回答が得られました。

回答割合
誰かから成果や努力を認められたとき55.7%
自分自身の力で目標を達成したり、ものごとをやり遂げたとき47.1%
自分自身の成長を感じたとき44.1%

上記の結果を見ると、新入社員の多くは、「自分の成長を実感したい」という欲求を持っていることがわかります。そのため、新人に教育計画を共有し、自身の成長を確認させることは、モチベーションアップに非常に効果的だといえます。

ただし、新入社員の能力からかけ離れた無謀な教育計画(例:1ヶ月以内に新規契約を20件以上獲得する)だと、自分の成長を実感できず、かえってモチベーションを下げる恐れがあるため注意が必要です。

人材開発支援助成金が受け取れる

新入社員の教育計画を作成することで、「人材開発支援助成金が受け取れる」可能性があります。

人材開発支援助成金とは、事業主が労働者に対して訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などが助成される制度です。助成額は会社の規模や雇用形態、コースなどによって異なります。たとえば、「人材育成支援コース」の場合、助成額は下表の通りです(上限あり)。

支給対象となる訓練等賃金助成額(1人1時間当たり)経費助成率OJT実施助成額(1人1コース当たり)
人材育成訓練OFF-JT760~960円
(380~480円)
45~100%
(30~45%)
認定実習併用職業訓練OFF-JT760~960円
(380~480円)
45~60%
(30~45%)
OJT20~25万円
(11~14万円)
有期実習型訓練OFF-JT760~960円
(380~480円)
60~100%
OJT10~13万円
(9~12万円)

※( )内は中小企業以外の助成額

人材開発支援助成金の申請には複数の書類提出が必要で、そのうちの1つが「事業内職業能力開発計画」です(不要な場合もある)。事業内職業能力開発計画とは、自社の人材育成の基本方針などを記載した教育計画を指します。

新入社員の育成にかかるコストを抑えたい場合は、人材開発支援助成金を活用するのも一つの手です。人材開発支援助成金の受け取り条件や申請方法など、詳細を知りたい方は厚生労働省の公式サイトをチェックしてください。

参考:

厚生労働省「事業内職業能力開発計画」

PR TIMES「【調査レポート公開】2022年度新⼊社員のリアルと自律をうながす育成のポイント~モチベーションが高まるポイントは「承認」「達成」「成長」~」

厚生労働省「人材開発支援助成金」

新入社員の教育計画を立てる際のポイント

新入社員の教育計画を立てる際に重要なポイントについて、厚生労働省の情報をもとに解説します。

人材の育成方針を定める

新入社員の教育計画を作成する際は、まずは新人をどのような社員に育て上げたいのか、「人材の育成方針」を定めましょう。

厚生労働省では、企業の経営理念や経営目標をもとに、育成方針を定めることを推奨しています。経営の目的に沿った育成を行うことで、全社員の意識・行動を1つの方向に合わせ、会社を持続的に成長させるためです。

例として、「我々は、弛まない創意工夫の精神を持ってものづくりに励み、社会文化の発展に貢献します」という企業理念の場合、育成方針は以下のようなものが考えられます。

職務遂行に必要な能力を明確にする

新入社員の教育計画を作成する上では、「職務を遂行するのに必要な能力」を明確にすることが重要です。業務に必要な知識やスキルがわかれば、その能力をいつ・どのように習得させるか、計画が組みやすいからです。また、新入社員にとっても、自身のキャリア形成のためにやるべきことを理解しやすい点がメリットといえます。

厚生労働省では、必要な職業能力を洗い出すのにあたって、「職務要件書」の作成を推奨しています。職務要件書とは、職種や職位別に「責任の範囲」「業務の範囲」「必要な職務能力」などをまとめたものです。

▼(例)IT企業新入社員の職務要件書

部門事業内容作業項目と範囲職業能力要件
営業顧客管理
営業事務
顧客管理
契約業務
請求書発送業務
検収処理
MOS Word(中級程度)
MOS Excel(中級程度)
開発機構開発基本
電装開発基本
ソフトウェア開発基本
設計業務ITパスポート
基本情報処理技術者
MOS Word(中級程度)
MOS Excel(中級程度)
製造製品の組み立て・納品入荷部品検収作業
組み立て作業
出荷作業 
組み立て作業
基本情報処理技術者

現場や個人の教育ニーズを確認する

新入社員に対してどのような教育をしてほしいのか、「現場や個人の教育ニーズ」を確認しましょう。新人一人ひとりに必要な教育内容は、働く現場や個人の能力・レベルなどによって異なるからです。

新入社員の教育内容は経営理念や営業方針など、経営戦略的なニーズを考慮して決めることが多いでしょう。経営戦略は会社全体で目指す方向性を示すものであり、全社員の意識・行動を合わせる効果が期待できます。しかし、経営戦略サイドのニーズだけを取り入れた場合、教育内容も全社員に共通の、一般的なものや総合的なものになる恐れがあります。

一方、現場サイドのニーズを取り入れた教育内容であれば、新入社員が日常の業務に直結するスキルや知識を効率よく習得できる可能性が高いです。また、個人のニーズを考慮すれば、自身の目標や能力に応じた教育が受けられるため、新人の自律的な学習意欲を高める効果も期待できます。

以上のことから、新入社員の教育計画は「経営戦略」「現場」「個人」の3つのサイドからのニーズをバランスよく考慮し、作成することが重要といえます。

▼(例)現場・個人の教育ニーズ

計画は適宜見直す

新入社員の教育計画は作成したら終わりではなく、計画を「適宜見直す」ことも大切です。新人教育が計画通りに進む保証はなく、軌道修正が必要になるケースもあるからです。

ロチェスター工科大学によると、社員の教育計画は定期的に本人と共有し、何を学んだかや、学んだことをどのように生かすかを、振り返ることが重要とされています。もし、教育方法やスケジュールなどに問題がある場合は、適宜修正を加えることで、新入社員をより無駄なく効果的に教育できる可能性が高いです。

▼(例)プログラミング研修を受講した新人との振り返り

振り返り回答
何を学んだ?
どんなスキルが身についた?
基本的なプログラミング言語や、ソフトウェア開発の大まかなプロセス
学んだことをどのように生かす?新たなプロジェクトの設計や開発において、学んだ知識を応用して高品質なソフトウェアを開発する
教育計画に問題はない?
教育方法はどのように改善すればいい?
講義だけだと表面的な知識しか得られない。研修の最後にプログラムを実際に組み、実践的なスキルも身につけたい

参考:

厚生労働省「「事業内職業能力開発計画」作成の手引き」

Rochester Institute of Technology “Employee Development Plan Employee/Supervisor Guide”

新入社員の教育計画に必要な項目

テーブルで会話する若い男女グループの画像

リンデンウッド大学の情報をもとに、新入社員の教育計画に含めるべき項目について解説します。

目標

新入社員の教育計画を作成するにあたり、もっとも重要な項目は「目標」です。目標が定まらなければ、新人が習得するべきスキルや、そのための教育方法が決められません。

リンデンウッド大学によると、具体的で効果的な目標を設定するには、「SMARTの法則」にしたがうのが有効とされています。SMARTの法則とは、以下の5つの基準に沿って目標を設定する手法のことです。

▼(例)新入社員のSMART目標

3ヶ月以内に業務ソフトウェアの基本操作をマスターし、毎日のデータ入力作業をミスなく4時間以内で完了させる

SMART目標の詳細な設定方法や注意点について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

方法

新入社員の目標を設定したら、それを達成するための教育・訓練の「方法」を検討しましょう。新入社員の教育・訓練方法は、主に以下の3種類に分けられます。

種類概要メリット
OJT
(On the Job Training)
上司や先輩社員が、職場での実際の業務を通じて直接指導を行う・実践的なスキルが身につく
・フィードバックを受けられる
・コストを安く抑えられる
OFF-JT
(Off the Job Training)
研修やセミナーなど、職場を離れた環境で行われる・必要な知識を体系的に学べる
・業務から離れ、集中して学習できる
自己啓発個人が自らの意思で、自己成長やスキル向上を目指して行う・時間や場所に縛られずに学習できる
・幅広い知識やスキルを身につけられる

新入社員に習得させたいスキルや予算、スケジュールなどを考慮し、適切な教育・訓練方法を選ぶことが重要です。

▼(例)新入社員の教育・訓練方法

・先輩社員にチェックしてもらいながら、業務ソフトウェアを使い実際にデータ入力を行う(OJT)
・業務ソフトウェアの使用方法に関するセミナーに参加する(OFF-JT)
・業務ソフトウェアに関する書籍を購入し、自分で学習する(自己啓発)

進捗

新入社員の教育計画には、目標に対する「進捗」も記載しましょう。ここでいう進捗とは、以下のような要素を指します。

教育計画に進捗を記載することで、新入社員本人も含め、関係者間で目標に対する進展を共有できます。もし、進捗が順調であれば、新入社員のモチベーションアップにつながるでしょう。また、万一進捗が芳しくない場合でも、課題の把握や計画の修正がしやすい点もメリットといえます。

▼(例)新入社員の教育計画の進捗

(「3ヶ月以内に業務ソフトウェアの基本操作をマスターし、毎日のデータ入力作業をミスなく4時間以内で完了させる」という目標に対し)
・ソフトウェアの基本操作方法はマスターしており、実際の業務に取り組んでいる
・データ入力作業はとくに大きなミスはないものの、まだ6時間ほどかかっている
・引き続き反復練習をくり返し、7月末までに4時間を切れるよう努める

コスト

新入社員の教育にかかる「コスト」を計画に組み込むことも重要です。ここでいうコストには、以下のような費用が含まれます。

新入社員の教育にかかるコストを明確にすることで、予算管理がしやすくなり、必要なリソースを適切に割り当てることが可能です。また、費用対効果(ROI)を測定することで、教育・訓練方法の見直しがしやすい点もメリットといえます。

▼(例)新入社員教育のコスト

・パソコンおよび業務ソフトウェアの購入費用:20万円
・業務ソフトウェアの基本操作方法習得までにかかった、先輩社員および新入社員の人件費:10万円・業務ソフトウェアの使用方法に関するオンラインセミナーの受講費用:5万円
→業務ソフトウェアの基本的な操作方法については、オンラインセミナーを受講した方が費用対効果が高い

評価基準

新入社員の教育計画には「評価基準」を設けることが大切です。

評価基準が必要な理由として、教育・訓練の効果を測定しやすい点が挙げられます。例として、とあるオンライン講習を受講し、「理解度テストで80%以上獲得する」ことが評価基準だったと仮定します。このとき、理解度テストで80%以上が取れれば、講習の受講は適切な教育方法だったと判断できます。逆に、テストの点数が80%未満だった場合は、別の教育方法を検討した方がよいことがわかります。

また、評価基準を設けることで、新入社員が自身の成長を実感しやすい点も大きなメリットといえます。先ほども述べたように、新入社員の多くは「成長を実感できたときにモチベーションが高まる」傾向が強いです。成長を実感しモチベーションがアップすれば、さらに成長スピードが促進される効果も期待できるでしょう。

▼(例)新入社員教育の評価基準

(「3ヶ月以内に業務ソフトウェアの基本操作をマスターし、毎日のデータ入力作業をミスなく4時間以内で完了させる」という目標に対し)
・業務ソフトウェアの操作方法に関する理解度テストで90%以上を獲得する
・1ヶ月間のデータ入力作業のミスを、平均3個/回までに抑えている
・1回あたりのデータ入力作業を4時間以内に終えている

参考:

Lindenwood University “Planning for Employee Development”

University of California “SMART Goals: A How to Guide”

【職種別】新入社員の教育計画の作成例

ここまでに解説した内容をふまえ、新入社員の教育計画の作成例を職種別に紹介します。

営業職の作成例

目標方法進捗コスト評価基準
3ヶ月以内に先輩社員の同行なしで、1人で商談を行えるようにする・商談はただ同行するだけでなく、相手と積極的にコミュニケーションをとる
・毎回商談後に振り返りを行い、学びや改善点を共有する
・取引先へのアポ取りなど、一部の業務は1人で行えている
・商談の場でも、相手とそれなりにコミュニケーションが取れている
・7/3の商談より1人で実施予定
・先輩社員および本人の人件費:約50万円
・商談先までの交通費:約3万円
・3ヶ月以内に先輩社員の同行を卒業する
・アポ取りや資料作成などの準備も含めて、商談を1人で問題なく行える
半年以内に、新規顧客のアポイントを月に10件以上とれるようになる・1日30件以上新規顧客に架電・メールでアプローチする
・定期的にロープレを実施し、課題や改善点を共有する
・1日30件以上アプローチはしているが、アポは月5件ほどしかとれていない
・7/10にロープレを実施し、スキルアップを目指す
・本人の人件費:約30万円
・ロープレ参加者の人件費:約2万円
・月10件以上アポを取る
・半年以内に目標を達成する

製造職の作成例

目標方法進捗コスト評価基準
1ヶ月以内に安全衛生講習を受講し、理解度テストで90点以上を獲得する・安全衛生講習を受講する
・講習で学んだ内容をレポートにして提出する
・安全衛生講習は5/10に受講済み
・レポートは提出済みで、内容も問題ない
・5/17に理解度テストを実施予定
・講習費用(教材費・会場費含む):約50万円
・本人の人件費:約5万円
・安全衛生講習を受講する
・講習の重要ポイントをわかりやすくレポートにまとめている
・1ヶ月以内に理解度テストで90点以上を獲得する
半年以内に品質検査時間を10%短縮するための改善策を2つ提案する・先輩社員のフォローのもと、品質検査業務を実際に行う
・2ヶ月に1度、改善策の中間報告会を開催する
・品質検査の実務は問題なく行えている
・5/15に実施した中間報告会では、現状の検査業務の課題は把握できていたが、改善案は現実的ではなかった
・次回の中間報告会を7/3に実施予定
・先輩社員および本人の人件費:約300万円・現状の検査業務の課題点や、効果的かつ実現可能な改善策を2つ以上提案する
・目標を半年以内に達成する
・中間報告会も含め、資料の準備から当日の発表内容まで、勤務態度に問題がない

人事職の作成例

目標方法進捗コスト評価基準
3ヶ月以内に自社の採用プロセスを理解し、30件以上の採用面接に参加する・先輩社員の採用業務のアシスタント(書類確認や就活生への連絡)を行う
・1次面接に採用担当として参加する
・ESの合否振り分けや就活生への日程連絡など、アシスタント業務は問題なく行えている
・6/3の1次面接から参加予定
・先輩社員および本人の人件費:約100万円
・採用面接の経費(会場費や交通費など):約300万円
・採用業務のアシスタントをミスなく正確に行えている
・6月末までに30件以上の採用面接に参加する
6ヶ月以内に人事関連の社内文書を整理し、新しい従業員ハンドブックを作成する・社内文書に一通り目を通す
・2ヶ月ごとに、従業員ハンドブックの進捗報告会を開催する
・社内文書は一通り理解できている
・5/20の進捗報告会では、現状の社内文書の課題や問題点を共有しただけだった
・次回7/23に再び進捗報告会を実施予定
・本人の人件費:約50万円・6ヶ月以内に、全社員にとってわかりやすく便利なハンドブックを作成できている
・ハンドブックの作成や進捗報告会での発表などを含む、勤務態度に大きな問題がない

まとめ

新入社員の教育計画の作成方法について、記入例付きで解説しました。

教育計画を適切に作成することで、新入社員を無駄なく効率的に教育できるだけでなく、新人自身のモチベーションをアップさせる効果も期待できます。新入社員がうまく育たず悩んでいる方は、まず教育計画の作り方に問題がないか、見直す必要があるかもしれません。

本記事で紹介したポイントをふまえて、効果的な教育計画を作成することで、新入社員を優秀な人材へと育て上げてください。