社内アンケートは業務改善に向けた有効な手段ですが、実施するだけでは十分な効果は得られません。従業員の声を集めた後、それを具体的な改善行動につなげることが成功の鍵となります。
本記事では、アンケートの重要性を再確認し、効果を引き出すための準備や運用のコツを解説します。
業務改善のための社内アンケートは意味がない?そういわれる理由は?

多くの企業が業務改善を目的にアンケートを活用していますが、期待した成果を得られないケースも少なくありません。
株式会社Boulderの調査によると、従業員サーベイを実施した企業のうち、約6割が「改善の成果を実感できていない」と回答しています。この結果から、アンケートが十分に活用されていない現状が浮き彫りになっています。
その主な原因の一つは、「回答を集めるだけで終わっている」点です。データを活用しなければ、従業員は「意見が無視されている」と感じ、モチベーションの低下を招く可能性があります。
また、質問設計が不適切な場合も、集まったデータが具体的な課題解決に役立たない原因となります。
参考:
株式会社wellday『約7割が従業員・組織サーベイは「無駄」「疲れる」「改善を実感できない」。Wellが「従業員・組織サーベイへの意識と改善状況」を独自調査』
社内アンケートを作る前に確認するべきこと

オハイオ州大学の記事によると、アンケートを効果的に活用するには、以下のポイントを押さえることが重要です。
アンケートの目的を明確に伝える
アンケートを実施する際は、その目的を従業員にしっかりと伝えることが大切です。
例えば、「このアンケートは職場環境をより良くするための第一歩です」と伝えることで、従業員がアンケートの意図を理解しやすくなります。
目的が曖昧だと、「ただやらされているだけ」と感じる人が増え、正直な意見が集まりにくくなる可能性があります。目的を明確にすることは、回答率や回答の質を高めるための基本です。
従業員が安心して答えられる環境を作る
アンケートで本音を引き出すには、回答者が「安心して答えられる」と感じることが重要です。匿名性を確保する仕組みを整えたり、外部ツールを活用して回答内容が個人に結びつかないようにすることで、従業員の不安を取り除きましょう。
また、結果を報告する際は、個別の意見ではなく、集計データのみを共有することも大切です。従業員が「自分の意見が守られている」と確信できれば、率直な回答が得られやすくなります。
わかりやすく具体的な質問を用意する
質問内容がわかりにくかったり、アンケートが長すぎたりすると、回答者は途中で疲れてしまうことがあります。質問は簡潔かつ具体的にすることを心掛けましょう。
例えば、「職場の環境についてどう思いますか?」という曖昧な質問ではなく、「普段の業務で不便に感じる点を教えてください」といった具体的な質問にすることで、より役立つ意見を得やすくなります。
また、「数字で評価できる質問」を取り入れることで、データ分析がしやすくなります。例えば、「チーム内のコミュニケーションに満足していますか?」という質問に対して、「1: 全く満足していない~5: 非常に満足している」のようなスケールを使うと、全体の傾向を把握したり、改善の優先順位を決める際に役立ちます。
回答をもとに具体的な行動を起こす
アンケートを実施しただけで終わらせず、集まった意見をもとに改善を進めることが重要です。
例えば、従業員から「ミーティングの数が多すぎる」という意見が寄せられた場合は、ミーティングの頻度や時間を見直すなど、具体的な対応を行いましょう。その際、「アンケートでいただいた意見をもとに、ミーティングの回数を減らしました」といった形で変化を共有すると、従業員は自分たちの意見が反映されていると実感しやすくなります。
その後の変化を継続的に追跡する
アンケートの結果をもとに改善を行った後は、その効果を定期的に確認することが欠かせません。
例えば、四半期ごとにフォローアップ調査を実施して、「新しい施策がうまく機能しているか」や「新たに浮上した課題がないか」を確認しましょう。また、「前回のアンケートからこんな変化がありました」と結果を従業員に共有することで、信頼関係を深め、次回のアンケートへの協力も得やすくなります。
参考:
The Ohio State University“INSIGHT: How to Design Effective Employee Engagement Surveys”
社内アンケートで避けるべき質問

社内アンケートは従業員の意見や職場環境の改善点を把握する有効な手段ですが、不適切な質問を含めると、正確な情報が得られず、従業員の信頼を損なう可能性があります。
以下では、USIQの記事をもとに、アンケート作成時に避けるべき質問の例とその理由を紹介します。
曖昧な質問
例: 「仕事に対してどのように感じていますか?」
理由: 答えが抽象的になりやすく、具体的な課題を特定するのが難しくなります。代わりに、「現在の業務で一番負担に感じている点を教えてください」と具体性を持たせると良いでしょう。
誘導的な質問
例: 「マネージャーは丁寧なコミュニケーションを取っていると思いませんか?」
理由: 質問が特定の答えを促すような形になっているため、回答が偏るリスクがあります。中立的な表現にすることで、正直な意見を引き出せます。
プライバシーを侵害する質問
例: 「家庭の問題が仕事に影響していますか?」
理由: 個人のプライバシーに関わる質問は、従業員の不快感を招き、回答率を低下させる可能性があります。
二重質問
例: 「上司や同僚から信頼されていると感じますか?」
理由: 複数の要素が含まれると、回答者がどちらについて答えれば良いのか分からなくなります。質問は一つの要素に絞りましょう。
専門用語や難解な言葉を使った質問
例: 「部門内でのクロスファンクショナルな統合の程度をどう思いますか?」
理由: 難しい言葉や専門用語は理解しにくく、正確な回答を得られない場合があります。「部門間の連携はスムーズだと感じますか?」など、わかりやすい言葉を選びましょう。
質問数が多すぎるアンケート
例: 長すぎるアンケートや複雑な質問
理由: 時間や労力がかかりすぎるアンケートは、回答者が途中で諦めたり、いい加減に答えたりする可能性があります。質問数は適度に抑え、簡潔にまとめましょう。
従業員が答えられない質問
例: 「グローバルマーケティング戦略の効率性をどう評価しますか?」
理由: 専門知識や経験が求められる質問は、回答者が正確に答えられず、結果が信頼性に欠けるものになります。全従業員が理解しやすい質問を選びましょう。
否定的または責任追及型の質問
例: 「チームの生産性が低い理由は何だと思いますか?」
理由: 否定的な表現は防御的な態度を引き起こし、率直な回答を得にくくなります。「チームの生産性を向上させるために必要なことは何ですか?」といったポジティブな聞き方を心掛けましょう。
目的から外れた質問
例: 「好きな昼食メニューは何ですか?」
理由: アンケートの目的に関係ない質問は、従業員に「時間の無駄」と感じさせる可能性があります。目的に直結する質問に絞りましょう。
匿名性を疑わせる質問
例: 「チームリーダーの決定についてどう思いますか?」
理由: 回答者が特定されるのではないかと不安を感じると、正直な意見が得られなくなります。匿名性を保証する仕組みを明確に伝えることが重要です。
繰り返しの質問
例: 「仕事で評価されていると感じますか?」と「上司に評価されていると感じますか?」
理由: 同じような質問が続くと、回答者が苛立ちを覚えたり、回答の質が低下したりすることがあります。質問内容に重複がないか事前に確認しましょう。
複雑なトピックへのYes/No形式の質問
例: 「会社は従業員の成長を促進していると思いますか?」
理由: 複雑な内容をYes/Noで答えさせると、詳細な情報が得られません。「成長のためのどの取り組みが役立つと感じますか?」など、選択肢や記述形式を加えると良いでしょう。
参考:
USIQ UNITED STATES INSTITUTE FOR QUALITY LLC“Questions You Should Not Ask in An Employee Survey”
社内アンケートを実施する際の注意点

社内アンケートは、適切な準備や対応が欠けると、逆効果を招くリスクがあります。以下では、ウォルデン大学の記事を参考に、アンケート実施時に注意すべきポイントを解説します。
データが「過去の問題」に偏らないようにする
アンケート結果は、実施した時点での状況を反映したものにすぎません。そのため、得られたデータをそのまま活用すると、過去の問題解決に注力しすぎて、未来志向の改善策が見えにくくなる恐れがあります。
例えば、「以前のトラブル対応についてどう感じましたか?」という質問ばかりではなく、「今後の業務で何を優先すべきだと考えますか?」といった未来を見据えた質問を組み込むことで、バランスの取れた分析が可能になります。
データを解釈する際には、他の情報や将来の目標と組み合わせて考えることが重要です。
情報量が多すぎて重要な内容を見失わないようにする
大規模なアンケートでは、膨大なフィードバックが集まりがちです。これにより、分析者が重要なポイントを見逃してしまうリスクがあります。
例えば、「職場の全般的な課題」ではなく、「日常業務で最も負担に感じている点は何ですか?」といった具体的な質問に絞ることで、得られるデータの質が向上します。
また、結果を効率的に活用するためには、データ分析の基準や優先順位を事前に設定することも効果的です。
アンケート結果が放置されないようにする
アンケートを実施した後、その結果を活用しなければ、従業員は「意見を聞いてもらえなかった」と感じ、不満や不信感を抱くかもしれません。特に、調査後に具体的な行動が見られない場合、この傾向が顕著です。
調査後は、結果をできるだけ早く共有し、「この意見を受けて、こうした施策を導入します」といった具体的な行動に結びつけましょう。こうすることで、従業員に「自分たちの声が反映されている」と感じてもらえ、信頼関係が深まります。
実施や分析にかかるコストを最小限にする
アンケートを設計・実施し、データを分析して対応策を講じるには、相応の時間とコストが必要です。特にリソースが限られている企業にとって、これは大きな負担となることがあります。
コストを抑えるためには、アンケートの目的を明確にし、最も重要な項目に絞ることが有効です。また、外部のツールやサービスを活用することで、作業の効率化を図るのも一つの方法です。
従業員が安心して正直に答えられる環境を整える
従業員が匿名性やプライバシー保護に不安を感じると、正直な回答が得られなくなることがあります。この結果、調査データが偏り、真の課題が見えなくなる恐れがあります。
そのため、アンケートでは匿名性を保証し、「回答内容が誰かに知られることはありません」といったメッセージを明確に伝えましょう。また、報復のリスクがないことを従業員に示すことで、安心して意見を述べてもらう環境を整えましょう。
誤解や期待のギャップを防ぐ
アンケートの目的や期待される成果を従業員に十分説明しないと、誤解や過剰な期待を生む可能性があります。例えば、「すべての問題がすぐに解決する」と期待させてしまうと、後の対応で失望を招くかもしれません。
調査を実施する前に、「アンケートは現状を把握し、改善のヒントを得るための第一歩です」といった説明を丁寧に行い、現実的な期待値を共有することが重要です。
参考:
Walden University“Employee Surveys: A Few Pros and Cons”
まとめ
社内アンケートを真に効果的なものにするには、単に実施するだけで満足せず、そこから得られたデータを活用して具体的な改善に結びつけることが不可欠です。
従業員の声にしっかりと耳を傾け、その意見をもとにした行動を透明性を持って進めることで、職場環境の向上だけでなく、従業員との信頼関係を深めることができます。
アンケートは終わりではなく、新たな一歩を踏み出すための出発点です。業務改善の道のりにおいて、その可能性を最大限に活かしていきましょう。