部下を抱える人の中には「リーダーシップとマネジメントはどのように違うのか」と考える人もいらっしゃるでしょう。
一見似ているように思えるリーダーシップとマネジメントですが、それぞれの役割や取り組み方には大きな違いがあります。この記事では、両者の特徴を具体例とともに解説し、自分に必要なスキルを見直すためのヒントをお届けします。
リーダーシップとマネジメントの違い
リーダーシップとマネジメントは、組織運営において重要な役割を果たしますが、それぞれに異なる特徴があります。以下では、ハーバードビジネスレビューの記事を参考に、この違いを詳しく解説します。
目標への向き合い方
マネージャーは、組織が「今必要なこと」を考え、過去の実績などをもとに目標を設定し、実現しようとします。一方、リーダーは「こんな風にしたい」「こうなりたい」といったビジョンを元に、未来を見据えた目標を作り、その実現に向けて積極的に動きます。
例えば、新しいプロジェクトを始める際、リーダーは新しいアイデアを提案し、それに共感を集める役割を果たします。マネージャーはそのアイデアを実行可能な形にし、具体的な成果を上げるためのプロセスを作り上げます。
トラブルへの対応
トラブルが起きたとき、マネージャーはまず秩序や安定を優先し、混乱を防ぐために素早く対応します。一方、リーダーは、多少の混乱があっても受け入れながら、問題の本質を理解するために急がず慎重に状況を見極めます。
例えば、業務のミスが発覚した際、マネージャーは手順の修正に集中するのに対し、リーダーはミスの背景を掘り下げ、再発防止策や新しいアプローチを考案します。
仕事への考え方
マネージャーは、物事を進めるための手順やプロセスをしっかり管理し、今あるリソースを活用して計画を実行することに力を入れます。一方で、リーダーは新しいアイデアや可能性を探り、これまでのやり方にとらわれない解決策を追求します。
例えば、チームの働き方を見直す場合、マネージャーは現行のスケジュールやタスク管理を見直して効率化を図ります。一方、リーダーはリモートワークや新しいツールの導入といった、より大胆な変革を提案することがあります。
メンバーとの関係性
マネージャーはチームメンバーを事業計画や業務のプロセスの一部として効率よく管理することに力を入れます。
一方、リーダーはメンバー一人ひとりに共感しながら向き合い、感情的なつながりを築くことを大切にします。
例えば、チームのやる気を高めたいとき、マネージャーはそれぞれの役割や目標を明確に伝えます。一方、リーダーはメンバーの気持ちや考えに寄り添い、共感を通じて信頼関係を深めることに注力します。
考え方と行動パターンの違い
マネージャーは、現状維持や秩序を重視する傾向があります。一方、リーダーは環境から一歩引いた視点を持ち、「変化をもたらすこと」を目指します。
例えば、経営環境が大きく変わる場面では、マネージャーは今あるリソースを最大限に活かしながら現状を維持する方法を考えます。一方で、リーダーはその変化を前向きに捉え、新しい挑戦や可能性を模索します。
リスクへのアプローチ
マネージャーはリスクを最小化することに重点を置きますが、リーダーはむしろリスクを受け入れ、その中にチャンスを見出そうとします。
例えば、新市場への進出において、マネージャーは慎重にリスクを分析して段階的に進める一方、リーダーは思い切った挑戦を行い、大きな成果を狙います。
参考:
Harvard Business Review“Managers and Leaders: Are They Different?”
リーダーシップに求められるスキルとは?
リーダーシップを発揮するためには、さまざまなスキルが必要です。以下では、IMDの記事を参考に、組織を成功へと導くためにリーダーが身につけるべきポイントを解説します。
信頼を基盤にチームを強化する力
リーダーがメンバーと日頃から率直に話し合い、互いの理解を深めることで、信頼を築きます。この信頼は、チーム全体の結束を強め、挑戦を乗り越える土台となります。
例えば、メンバーが抱える課題を丁寧に聞き取り、適切なサポートを提供することで、安心して働ける環境を作ることができます。
柔軟性を生かし変化を受け入れる力
現代のビジネス環境では、変化を前向きに捉える姿勢がリーダーに求められます。新しいトレンドや技術に敏感であり、それを迅速に取り入れることで、チームを成長へと導きます。
例えば、新しい業務プロセスを導入する際に、自らが率先して学び、その価値をチームに伝えることが重要です。
顧客視点で価値を創造する力
リーダーは新しいアイデアを形にして、顧客の期待を上回る価値を届ける役割を担っています。その基盤となるのは、顧客のニーズを深く理解し、その声に耳を傾ける姿勢です。
例えば、顧客からの意見やフィードバックを分析し、それを製品やサービスに反映させることで、顧客満足度を高めると同時に、「この会社は自分たちを理解している」と信頼を得ることができます。
また、顧客がまだ気づいていない潜在的なニーズや市場のトレンドを先取りし、新しい価値を創造することもリーダーの重要な役割です。こうした取り組みによって、顧客からの高い評価と長期的な関係構築が実現します。
チームのモチベーションを高めるコミュニケーション
リーダーがメンバーに感謝や賞賛の言葉を伝えることで、チーム全体のやる気を高め、それが大きな成果へとつながります。評価されていると感じることで、メンバーは自分の役割に自信を持ち、次の仕事への意欲を一層高められるのです。
たとえば、プロジェクトが成功したときには、個々の努力やチームワークを具体的に称え、その成果をみんなで共有できる場を設けることが効果的です。「お疲れ様」「ありがとう」といったシンプルな言葉でも、リーダーから直接声をかけられることで、メンバーの満足度は大きく向上します。
また、日常的な小さな声かけも忘れてはいけません。たとえば、「この資料、よくまとめてくれて助かったよ」や「いつも安定した結果を出してくれるね」といった言葉をかけるだけで、チーム内の雰囲気はぐっと良くなります。こうした積み重ねが、チームの結束力を高め、結果としてより良い成果を生み出します。
困難な決断に向き合う覚悟
リーダーには、たとえ反対意見や不満の声が出るような決断であっても、組織全体の利益を優先して実行する責任があります。
例えば、限られたリソースを別のプロジェクトに振り分ける必要があるとき、メンバーに負担が増える可能性があれば、不満が生じることも考えられます。その際、リーダーは一方的に決定を押し付けるのではなく、どうしてその決断が必要なのかを丁寧に説明し、メンバーの意見に耳を傾ける努力が重要です。
こうした対応を通じて、最終的にはチームの理解や協力を得られるようになります。また、このような誠実な姿勢は、たとえその場では不満が残ったとしても、リーダーとしての信頼感を築き、長期的には組織全体の結束力を強めるきっかけとなります。
意見の食い違いをまとめる調整力
リーダーには、メンバー間で意見がぶつかったときに橋渡し役を務め、チームをまとめる力が求められます。対立が起きた場合、それぞれの考えをしっかり聞き、共通するポイントや折り合いをつけられる部分を見つけることが大切です。
例えば、会議での意見対立では、双方の主張を整理し、「こうしたらどうだろう?」と新しいアイデアを提案して全員が納得できる方向へ導くのが理想です。このような調整が、チームの連携をスムーズにし、前向きな結果を生み出します。
合意形成を導く交渉力
リーダーシップには、チーム内外での交渉を円滑に進める力も欠かせません。特に、取引先や外部パートナーとの話し合いでは、相手の要望をしっかり理解しつつ、組織の目標を達成するための着地点を探る必要があります。
例えば、条件が折り合わないときには、「これを調整する代わりに、こちらの条件を採用してもらえませんか?」といった具体的な提案で双方にとって最善の結果を目指します。こうした交渉力が、リーダーの信頼感を高め、長期的な関係構築にもつながります。
視野を広げ、新たな可能性を模索する力
リーダーには、問題をさまざまな角度から考え、新しい解決策を見つける力が求められます。一つのやり方に固執するのではなく、「これまでにない方法」で突破口を探る柔軟な発想が重要です。
例えば、プロジェクトが行き詰まった場合に、「他のチームではどんな方法を使っているのだろう?」と異なる視点を取り入れたり、新しいツールやアイデアを試したりすることで、状況を一変させることができます。こうしたアプローチは、リーダーとしての強みを発揮し、チームに活気をもたらします。
参考:
マネジメントに求められるスキルとは?
リーダーシップとマネジメントは異なる特性を持ちながらも、相互に補完し合う存在です。それぞれのスキルを適切に磨き、場面に応じて使い分けることで、チームや組織の力をさらに引き出すことができるでしょう。
以下では、アワ・レイディ・オブ・ザ・レイク大学の記事をもとに、マネジメントに必要な能力について詳しく解説します。
情報を共有し円滑な協力を引き出す力
マネージャーに求められるのは、チームが必要な情報をきちんと理解し、迷わず動けるようにする力です。適切な情報共有は、安心感を与え、効率的な協力体制を築くための土台になります。
例えば、プロジェクトのスタート時には、全員の役割やスケジュールを明確にし、メンバーが何をすれば良いかはっきり分かるようにすることが大切です。また、進捗状況を定期的に共有することで、不安を減らし、チームの結束力を高めることができます。
明確な目標を設定し方向性を示す
マネージャーには、チーム全体の方向性を明確に示し、一人ひとりが何をすべきか理解できるようにする力が必要です。目標をしっかり設定し、それに向けた具体的な計画を共有することで、チームは混乱せずに前に進めます。
例えば、優先順位を整理してタスクを分担し、「まずはここまでやろう」と段階的な目標を示すことで、メンバーの迷いを減らすことができます。このような進め方が、チーム全体の効率を大きく向上させます。
冷静な分析に基づく意思決定力
マネージャーには、データや状況を的確に分析し、冷静に判断を下す力が求められます。感情や直感だけで動くのではなく、論理的で根拠のある意思決定が、チームの信頼につながります。
例えば、新しいプロジェクトを進める際には、メンバーのスキルやリソース、予算などを考慮して現実的な計画を立てることが重要です。短期的な成果と長期的な視点の両方をバランスよく考えることで、チームの成功率を高められます。
チームを安定させる変化対応力
ビジネス環境の変化にスムーズに対応し、チームが混乱せずに作業を進められるようにするのも、マネージャーの重要な役割です。変化を受け入れ、計画を柔軟に調整する力が求められます。
例えば、新しいシステムを導入する場合、突然すべてを切り替えるのではなく、段階的に導入し、メンバーが慣れる時間を確保することがポイントです。このような配慮が、チームの安定を支えます。
信頼関係を深める人間関係構築力
マネジメントの基本は、メンバーと信頼関係を築き、安心して働ける環境を作ることです。日々のコミュニケーションを丁寧に行い、メンバー一人ひとりの意見や気持ちを尊重する姿勢が欠かせません。
例えば、定期的なミーティングでは進捗状況だけでなく、「最近困っていることはないか?」といった声かけを行うことで、メンバーとの距離を縮めることができます。こうした小さな積み重ねが、チームの結束力を強めます。
将来を見据えた戦略的な計画力
マネージャーには、現状の課題を整理しつつ、チームや組織の未来を見据えた長期的な計画を描く力が求められます。目先の成果だけではなく、次のステップを見越した行動が大切です。
例えば、新市場への参入を検討する場合、競合他社の動向や市場のニーズを分析し、最適なタイミングで実行に移すことが成功の鍵となります。
人脈を活かして新たな可能性を広げる力
マネージャーは、業界内外での人脈を活用し、チームや組織に新しいチャンスをもたらす役割も果たします。情報交換や成功事例の共有を通じて、これまでにない発想や方法を取り入れることができます。
例えば、他社でうまくいっている方法を参考にし、自社に合わせて応用することで、業務効率や成果を大きく向上させることができます。
参考:
OLLU – Our Lady of the Lake University“Top 8 Executive Management Skills”
まとめ
リーダーシップとマネジメントは、それぞれ異なる役割を持ちながら、組織やチームの成功に欠かせない存在です。本記事では両者の違いと具体的なスキルを解説しましたが、それらを理解し、自分に必要な力を磨くことが、より効果的なチーム運営につながります。
重要なのは、リーダーシップとマネジメントを対立するものと捉えるのではなく、状況に応じて使い分ける柔軟性を持つことです。ぜひ、ここで得た知識を実践に役立ててみてください。